【ハケンアニメ!】「書くことの壁は書くことでしか越えられない」“ものづくり”の壁に立ち向かう人々が思い出させてくれた、創作の原点

王子監督と制作陣との間に立つプロデューサーの有科もまた、両者の板挟みになりながら孤軍奮闘する日々を送っていた。やり手プロデューサーに振り回される新人監督の斎藤。天才監督に振り回されるプロデューサーの有科。二人はある日、ストレス解消のために駆け込んだボクシングジムでばったり出会い、互いにぽつりぽつりと胸の内を吐露する。違う立場にある者同士だからこそ、斎藤には有科の言葉が、有科には斎藤の言葉が響いた。

「プロデューサーもスタッフも声優もみんな、作品を届けたい気持ちは監督に負けませんから」

有科のこの言葉は、あらゆる“ものづくり”に関わる人々の共感を得られるだろう。コンテンツ制作において、多大なる労力を費やしているのは監督や脚本家だけではない。どのつくり手も、どの立ち位置にいる人にも、それぞれ等しく苦労がある。

商業コンテンツは、ひとりではつくれない。大勢の力が結集し、膨大な時間と労力の果てにようやく完成するのだ。私たちがテレビやサブスク配信で手軽に享受している数々のコンテンツ。その作品の一つひとつに、数えきれないほどのドラマがある。そういう意味では、本作の主人公は斎藤監督だけではなく、作品に携わった全てのメンバーであるといえるだろう。

完成したコンテンツが一過性で消費されて終わるのか、10年後も人々の心に残るのかは、リアルタイムの視聴率だけでは測れない。そのことを踏まえた上で、視聴率へのこだわりを捨てず、多くの人々に作品を届けるためにできることをやり尽くす。そんな人々の奮闘記は、創作に関して迷いを抱える私の背中を力強く押してくれた。

「リアル以外の場所も豊かにするのが私たちの役目ですから」

アニメの原画を担当する絵師・並澤和奈が言う通り、リアルの場が豊かな人ばかりではない。現実に救いがない人にとって、創作の世界は唯一の逃げ場でもある。物語の世界に入り込む時間や、登場人物の台詞に救われる瞬間があるだけで生き永らえる命がある。ハッピーエンドかどうかは関係ない。

だから、私はつくりたい。そして、届けたい。斎藤と同じく、「昔の自分のような人に届けたい」と思いながら、日々文章と向き合っている。斎藤の作品は、届いた。届けたい人に、ちゃんと届いた。ラストシーンで彼女が流した涙の意味を噛みしめながら、私は明日も明後日も、“届けるため”に書き続けていく。

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■ハケンアニメ!
監督:吉野耕平
原作:辻村深月『ハケンアニメ!』
脚本:政池洋佑
撮影:清久素延
美術:神田諭
照明:三善章誉
録音:赤澤靖大
装飾:神戸信次
衣装:遠藤良樹
編集:上野聡一
音響効果:勝亦さくら
「サウンドバック 奏の石」監督:谷東
「サウンドバック 奏の石」キャラクター原案:窪之内英策
「運命戦線リデルライト」監督:大塚隆史
「運命戦線リデルライト」キャラクター原案:岸田隆宏
アニメーション制作:Production I.G
実写本編監修:東映アニメーション
アニメ監修:梅澤淳稔
音楽:池頼広
主題歌:ジェニーハイ「エクレール」
出演:吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里、前野朋哉、古舘寛治、徳井優、六角精児、梶裕貴、潘めぐみ、高橋李依、花澤香菜ほか
配給:東映
公式サイト:https://haken-anime.jp/

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。