【フェンス】「沖縄の問題」ではなく「日本の問題」。他人事にして目を逸らさないで

osanai フェンス

雑誌ライターの小松綺絵は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えていたブラックミックスの女性・大嶺桜を取材するために沖縄へ向かう。桜の供述には不審な点があるため、事件の真相を探っていくと──。
野木亜紀子によるオリジナル脚本を、「ペンションメッツァ」「きのう何食べた? season2」の松本佳奈が監督。主人公の綺絵を松岡茉優が演じる。桜役に抜擢された宮本エリアナは、本作が女優デビュー作となる。

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1995年9月4日、沖縄本島北部で米兵3人が12歳少女に性的暴行をはたらいた。事件は性暴力の問題にとどまらず、日米地位協定に付随するさまざまな要因から国際問題に発展した。当時中学生だった私は、大人たちが「日本は」「アメリカは」という大きな主語で事件の話をするたびに、被害者の尊厳や痛みがかき消されていくような気がした。そのことが悲しくて、悔しかった。

野木亜紀子氏が脚本を務めるWOWOWオリジナルドラマ「フェンス」では、沖縄を舞台に連続性的暴行事件の真相解明に立ち向かう女性たちの姿が描かれている。性暴力、米軍基地問題、日米地位協定の壁、ミックスルーツに対する差別。数々の社会問題はすべて地続きでつながっており、ゆえに解決は容易ではない。本作からは、それらの問題に正面から対峙する強い意志がうかがえる。

一つ、重要な点を先に述べる。本作は、米兵が起こした性暴力事件を軸に据えているが、決して「米兵=悪人」という描き方はしていない。どこにでも、一線を越える人とそうでない人はいる。国籍やジェンダーで人柄は定まらない。一つのカテゴリーで他者の善悪を決めつけるのは愚かなことだ。

外国人差別が蔓延する日本において、ミックスルーツの人々は日常的に生きづらさを抱えている。「声を上げたら嫌われる」という当事者の恐怖心、笑ってやり過ごすしか術のない現実が、本作では如実に描かれている。その点を踏まえた上で、この先を読み進めてほしい。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。