【フェンス】「沖縄の問題」ではなく「日本の問題」。他人事にして目を逸らさないで

物語は、女性による性被害告白の場面からはじまる。警察に被害を訴え出たのは、沖縄に住む大嶺桜。しかし、桜の証言には一貫性がなく、警察は虚偽の可能性を疑っていた。雑誌ライターの小松綺絵(愛称:キー)は、桜の事件を追うよう編集長に打診され、原稿料アップを条件に東京から沖縄へ飛ぶ。

編集長は、「辺野古基地建設への反対運動を盛り上げるため」に桜が虚偽の被害申告をしている可能性を指摘。キーは素性を隠して桜に近づき、徐々に親交を深めていく。やがて桜の人柄に惹かれたキーは、編集長の主張を否定気味に捉えるようになった。しかし、事件当日、桜が現場にいなかった事実が判明する。失望を隠さないキーに対し、「レイプはあった」と言い切る桜。両者の思いは拮抗するが、後日思いがけない形で、キーは事件の真相を知ることとなる。

結論から述べると、レイプ事件は実際にあった。だが、被害者は桜ではなかった。真の被害者は、桜の家の近所に住む高校生・仲本琉那であった。琉那は、事件に向き合うことを恐れていた。桜は、琉那が謂れのない二次加害に遭う事態を防ぐため、自ら身代わりを買って出たのである。

「高校生が米兵にレイプされたって言ったらどうなると思う?大騒ぎになるよ。そして基地反対運動が盛り上がる。そうしたら、それ目的の嘘だって言われる」

憤る桜は、身近な女性たちが受けてきた性被害における二次加害の事例を次々と列挙した。どんな服装だった?普段の素行はどうだった?本人に隙があったんじゃないの?ーーあらゆる角度から被害者の落ち度を探し、被害者自身に自責の念を植え付ける。令和の現代でさえ、無知のもとに二次加害を繰り返す人は後を絶たない。見知らぬ人の無理解も辛いものだが、身近な人、たとえば家族やパートナーから責めを負うのはもっと辛い。

桜が被害者だと思い込んでいた琉那の兄は、桜に向かってこう言い放った。

「女が『レイプされました』ってよく言えるよな。普通言えんだろ」

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。