【フェンス】「沖縄の問題」ではなく「日本の問題」。他人事にして目を逸らさないで

本作は性暴力のみならず、基地問題や地位協定の壁、戦時中の沖縄の被害についても詳しく触れられている。作中にて米兵がひき逃げ事件を起こす場面では、思わず目を疑った。

“日米地位協定では、(公務中の事故は)米兵本人や米軍ではなく、日本国が責任を負うと決められている。”(*1)

要するに、公務中に米兵が起こした事故の責任は、加害者本人ではなく「日本」が負うと定められているのだ。被害者への損害賠償を含めて、米兵は一切関与しない。通勤中の事故だとしても、「機密を保持している」ことを理由に罪は不問となる。加害者本人に直接責任を問えない制度に対し、沖縄県民から「改定が必要」との声が叫ばれて久しい。だが、改定は遅々として進まない。

普天間基地移設問題も含めて、内地に住む人間はこれらを「沖縄の問題」と言い捨てる。だが、それは違う。沖縄だけに押し付けて向き合うことから逃げている「日本の問題」だ。罪を犯したとしても、基地のフェンス内に逃げ込めば本国に逃げおおせる。機密事項を盾に身柄の受け渡しを拒否され、大勢の被害者が泣き寝入りを強いられる。それらすべて、「沖縄“だけ”の問題」では断じてない。

1995年に実際に起きた性暴力事件から、28年が経過した。事件を機に変わった側面もあるが、まだまだすべての沖縄市民が安心して暮らせる体制であるとは言い難い。

すべての社会問題にいえることだが、問題を「なかったこと」にしているのは、「自分には関係ない」と他人事にする人たちだ。自分は痛くないから見て見ぬふりをする。そうして黙殺されてきた痛みがどれほどあったか、その先で失われたものがどれほどの悲しみを生んできたか。そこに向き合うことから、私は逃げたくない。

“社会”は人の集合体だ。一人ひとりの意識と声が、この世をつくっている。キーの声が、桜の声が、琉那の声が、かき消されない世の中がいい。小さき者の声が広く届く社会。それこそが、暴力や差別のない世界へとつながっていると私は思う。

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■フェンス
監督:松本佳奈
脚本:野木亜紀子
撮影:高木風太、水本洋平
照明:宗賢次郎
録音:清水雄一郎
美術:富田麻友美
装飾:山﨑悠里、羽場しおり
編集:穂垣順之助
VFXスーパーバイザー:田中貴志
音楽:邦子、HARIKUYAMAKU、諸見里修、Leofeel
主題歌:Awich「TSUBASA feat. Yomi Jah」
出演:松岡茉優、宮本エリアナ、青木崇高、與那城奨、比嘉奈菜子、新垣結衣、光石研、吉田妙子ほか
製作:WOWOW、NHKエンタープライズ
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/fence/

*1:米軍犯罪対応マニュアル|米軍犯罪被害者救援センター ホームページより引用

<参考>
脚本家・野木亜希子さん「そんなことある?」沖縄のリアル、米軍基地と性暴力「連続ドラマW フェンス」(東京新聞 TOKYO Web)
12歳少女が3人の米兵に暴行され…それでもアメリカに物言えない政府〈沖縄は復帰したのか〜50年の現在地〉残したもの(東京新聞 TOKYO Web)
〈社説〉不同意性交罪 性犯罪の本質が明確に(朝日新聞デジタル)
吉野家に「拒否」されたミックスルーツの就活生、「勝手に外国籍とされ、ショック」(朝日新聞GLOBE+)
沖縄に関心なき政権、強引手法も官邸素通り 林官房長官、知事と会談(朝日新聞デジタル)
辺野古の軟弱地盤、12日にも着工へ 玉城知事「残念でならない」(朝日新聞デジタル)
日米地位協定の改定を求める宣言(日本司法書士会連合会)
日米地位協定の見直しに関する主な経緯(沖縄県公式ホームページ)

(イラスト:水彩作家yukko

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。