【フェンス】「沖縄の問題」ではなく「日本の問題」。他人事にして目を逸らさないで

性暴力に毅然と「NO」を言えば「被害者らしくない」と言われる。被害申告が遅れれば「すぐに被害届を出さなかったこと」を理由に虚偽を疑われる。強く抵抗しなかった場合、同意と見なされる。強く抵抗すれば殺されるかもしれない、暴力を振るわれるかもしれないという恐怖心は無視される。こんな現状だからこそ、桜は琉那を矢面に立たせるわけにはいかなかったのだ。

「被害者が名乗り出ることができない“社会”が間違っている」とキーは言った。その言葉の重みが、性加害に加担してきた側に届くことは少ない。そんな現実に憤りを覚える。本来、罪の重さに向き合うべきは、加害者であって被害者ではない。

キーと桜は独自に調査を続け、琉那を傷つけた犯人を追う。当初は桜を疑っていた警察官の伊佐も、連続的に起きた暴行事件の残忍さに憤り、捜査に本腰を入れはじめる。だが、本音をいえば、事件が単独のものであっても、挿入の有無に関わらず、はじめから真剣に捜査をしてほしいと感じた。被害者にとっては、その「たった一度の被害」が大ごとなのだから。

性暴力被害者が負う心的外傷後ストレス障害は、往々にして長きにわたる。傷が深い人の場合、トラウマが生涯続くことも稀ではない。性犯罪は被害者の人生を大きく狂わせるにも関わらず、立件が難しく量刑が軽い。訴えを起こさず諦める人が大半なのは、キーが言う通り、社会の構造や法整備の抜け穴が大きな要因を占めているといえよう。

近年、新たな要件を盛り込んだ「不同意性交等罪」が成立した。加えて、被害者秘匿(加害者に氏名や住所を知られずに済む制度)の新制度が施行されるなど、徐々に社会が被害者の声を拾いはじめている。各所へ懸命に働きかけた人たちによって成された変化は、これまで取りこぼした多くの被害者を掬い上げてくれるだろう。だからこそ、前進する体制へのバックラッシュには毅然と「NO」を伝えたい。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。