【ハケンアニメ!】「書くことの壁は書くことでしか越えられない」“ものづくり”の壁に立ち向かう人々が思い出させてくれた、創作の原点

osanai ハケンアニメ!

公務員からアニメ業界に飛び込んだ斎藤瞳。監督デビュー作でアニメ業界内のカリスマとして君臨する王子の最新作と同じ放送時間で激突する。果たして覇権を握るのはどちらか──。
原作は辻村深月の同名小説。監督は「沈黙の艦隊」「水曜日が消えた」の吉野耕平が手掛けている。

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私たちの日常には、さまざまなコンテンツがあふれている。

映画、ドラマ、アニメ、小説、エッセイ。そのほかにも多様なジャンルのコンテンツがあり、その存在に心を支えられている人も多い。私自身、かつてある作品と出会い、心と命を救われた経験がある。物語との出会いは、時に人の人生を大きく変える。映画「ハケンアニメ!」に登場する主人公・斎藤瞳もまた、あるアニメ作品に出会い、人生の舵取りを変えたひとりであった。

斎藤は子どもの頃、アニメに興味を持てなかった。そのため周囲の同級生と話が合わず、いつもひとりで絵を描いていた。友人がくれた魔法のステッキを、彼女は捨ててしまった。

「現実には魔法なんてない」

そう言って、斎藤は友人に背を向けた。斎藤の実家は日常的に借金取りが押しかけてくる状況で、彼女は恐怖で耳を塞ぎながらこう叫んでいた。

「この家に、大人はいません!!」

助けてほしいときに助けてもらえない経験が続くと、人はあらゆる可能性を信じられなくなる。わかりやすいヒーロー。魔法の力で悪を倒す正義の味方。虚構の世界で描かれる「正義」は、救いのない現実を生きる子どもにとって、ときに受け入れがたいものだ。

やがて大人になった斎藤は、あるアニメ作品に出会う。その作品は、彼女の心を捉えて離さなかった。作品の主人公は、“どこにでもいる普通の子ども”だった。特別な能力を持たない主人公を観て、斎藤は「はじめて自分の人生が肯定された」ような気がした。そのアニメを制作したのは、世間から「天才」と謳われる王子千晴。王子監督の作品を越えるアニメをつくりたい――その決意を胸に、斎藤は安定した公務員の職を離れ、アニメ制作の道へと足を踏み入れる。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。