【ハケンアニメ!】「書くことの壁は書くことでしか越えられない」“ものづくり”の壁に立ち向かう人々が思い出させてくれた、創作の原点

アニメ制作の現場で下積みすること7年、ついに斎藤は新人監督としてデビューを果たす。デビュー作タイトルは、「サウンドバッグ 奏の石」。最大のライバルは、同じ曜日の同じ時刻に放送されるアニメ「運命戦線リデルライト」。しかも、リデルライト制作を手掛けるのは、斎藤の人生を変えた王子監督だった。苛烈な視聴率合戦が繰り広げられるアニメ業界において、憧れの監督と競い合う覇権争いのスタートを切った斎藤。王子監督との対談の場で「覇権を取ります」と宣言した斎藤だったが、スタート時こそ同等だったものの、2話以降はリデルライトに視聴率を抜かれてしまう。

自分の信念を曲げられない斎藤は、制作スタッフや声優とも幾度となく衝突する。度重なる修正。声優に対する厳しい態度。作品に本気で向き合えば向き合うほど、周囲とは摩擦が生じ、斎藤は徐々に孤独と焦燥を抱え込むようになっていく。

本作は、創作にかける想いを軸に、“ものづくり”現場の裏側が赤裸々に描かれている。ひとつのコンテンツを完成させるために、現場では多くのスタッフが走り回り、各所に頭を下げ、必死にスケジュール調整をこなす。プロとして作品をつくる以上、その作品はより多くの人に届けねばならない。「つくって終わり」ではなく、「届ける」ところまで含めて仕事なのだ。その意識があるかないかで、やるべきことの幅は大きく変わる。

「100の方法で届けて、1届けばいいほうです」

斎藤と馬が合わないプロデューサー・行城の言葉だ。コンテンツを広く世に届ける苦労を知っている者ならば、この言葉が大袈裟ではなく事実であるとわかるだろう。

「つくる」と「届ける」は別物で、それぞれ違った労力が要る。制作サイドがクリエイティブな活動だけに全振りできるなら、本来それが理想的だろう。だが、現実はそう甘くない。著名な人物の作品ならばともかく、斎藤のような新人の作品となれば、プロモーションによって視聴率は大幅に左右する。

一方、「天才」と呼ばれる王子監督もまた、制作陣やテレビ局と意思疎通がうまくいかず、精神的に追い詰められていた。王子監督が絞り出すように吐き出した本音は、私の心の深部に刺さり、今でも疼きと熱を持っている。

「書くことの壁は、書くことでしか越えられないんだ。気分転換なんて死んでもできない。ひたすら齧りつくようにやるしかないんだよ」

彼の言葉を聞いた瞬間、内側からあふれた想いが頬を伝った。そうなんだよな。書くことの壁は、書くことでしか越えられないんだよ。だから苦しくて、辛くて、悩んで、それでもやめられなくて、どうにか書き上げたものが“届いた”瞬間の感情を抱きしめて、次の作品に向かうんだよ。そう思った。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。