【パスト ライブス/再会】届かない、愛の言葉──スポットライトの外で

osanai PAST LIVES/再会

お互いに淡い恋心を抱きながらも、12歳のときにソウルで別れた男女が、時を経て再会する24年間を描いた物語。
監督を務めたのは、本作がデビュー作となるセリーヌ・ソン。12歳でソウルからカナダに移住した体験をベースに、セリーヌ・ソン自らオリジナル脚本を執筆した。

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人によってささやく「愛の言語」は違う。
いかにもロマンチックなセリフに思えるかもしれない。しかしこれはもっと現実的な話だ。

The Five Love Languages』という本がある。

発売以来、実に2,000万部を超える売上を誇る全米ベストセラー。日本では『キケンなふたり:愛を救う5つの危機脱出作戦』というタイトルで2000年に世界文化社から刊行、2007年には『愛を伝える5つの方法』というタイトルでいのちのことば社から刊行されている。原著のAmazonレビューには現時点で約9万件の投稿があり、愛について多くの人が悩みを抱えていると同時に、この本に救われていることがうかがえる。

結婚カウンセラーとして数多のカップルに向き合ってきた著者が発見したのは、愛情表現として用いる「言語」は人それぞれだということだ。

ある人にとっての愛情表現は、「愛している」「ありがとう」といった、実際の言葉として相手に愛や感謝を伝えることだとする。しかし、その人のパートナーにとって愛情表現とは、言葉ではなく、態度で伝えること──共に時間を過ごす、家事を率先して行う──である場合もある。

こうなると何が起こるだろうか?

お互い、惜しみない愛情を示しているのに、それぞれの愛の「言語」が異なるがゆえに、相手の愛に気づくことができない。そして、「相手は本当に私を愛しているのだろうか?」という疑念に支配され始めるのだ。

自分と相手の愛の言語を理解できないまま、いたずらに時間が経ってしまえば、本当は愛し合っている2人でさえ袂を分かつことになる。これ以上の悲劇はない。だからこそこの本は、愛の言語を5つに大別し、自分と相手の言語をしっかり理解した上で関係性を築いていくことを勧めている。

同じ言語──日本語や英語──を話していても、すれ違いが起こるのは、恋愛に限らずよくあることだ。

「言葉が通じない」。それは言い換えるならば、「想いが通じない」状態。言葉としては確かに表現できているはずなのに。たとえば「愛している」という言葉。だが、言葉になったからといって、「愛している」という気持ちは簡単には伝わらない。相手が発した言葉を理解することと、その想いを心の底から理解することのあいだには、時に果てしない距離がある。

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S H A R E
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随筆家。徒然なるままに徒然なることを。本・旅・猫・日本酒・文化人類学(観光/災害/ダークツーリズム)などなど。