【釜石ラーメン物語】“納得できない”痛みを抱えながらも、母の味を守り継ごうと奮闘する姉妹の物語

店のあり方を巡り、姉妹は何度も衝突した。しかし、ぶつかりながら互いに本音を吐き出すことで、絡まり合っていた糸が少しずつほぐれていく。小川食堂が自分たちにとってどれほど大切な場所であるかに気付いた姉妹は、「母の味」を再現すべく、力を合わせて「釜石ラーメン」の復活を目指しはじめる。

釜石ラーメンは、せっかちな漁師たちを待たせないために、茹で上がりが早い極細の縮れ麺が用いられるようになったと言われている。琥珀色の透き通ったスープとシンプルな具材。今でいうところの「映え」からは程遠いビジュアルでありながら、一度食べれば病みつきになる美味しさだ。

なぜそう言い切れるかと言えば、私は子どもの頃に釜石ラーメンを食べたことがあるからだ。祖母に連れられていった店の名は、「三重食堂」。映画のロケ地である、小川食堂の実際の店名である。ラーメンとおにぎりを、座敷に座って食べた。店の前には美しい川が流れており、川の両脇は桜並木で縁取られていた。映画でも、満開の桜と清流の風景が作品を鮮やかに彩っていた。子どもの頃に見た光景が、スクリーンいっぱいに広がる。それは、不思議な感覚だった。

私は、ずいぶん長い間、故郷に帰っていない。複雑な生い立ちの影響で、地元に帰れない理由がある。同じ理由で、親戚の住む釜石を訪れることも難しい。だから、こうして作品を通して釜石の景色を見れてよかった。故郷に住まう人々も、この物語で描かれたように、もがきながら日々を生きているのだろう。

伝統の味を守り継ぐため。地域の安息所を保つため。家族の絆をつなげるため。震災から10年以上が経った今現在も、笑ったり泣いたりしながら、守りたいもののために奮闘している人たちがいることを、私たちは忘れてはいけない。

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■釜石ラーメン物語
監督:今関あきよし
脚本:今関あきよし、いしかわ彰
撮影:三本木久城
録音:丹雄二
音響:丹雄二
美術:Yocco
編集:鈴木理
音楽:遠藤浩二
主題歌:洸美-hiromi-「ひかり射し込む場所」
出演:井桁弘恵、池田朱那、利重剛、佐伯日菜子、大島葉子、藤田弓子、佐々木琉、村上弘明、渡辺哲ほか
配給:ムービー・アクト・プロジェクト

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。