【ガンニバル】絶対的な「わかりあえなさ」に出会った時、私たちは簡単に無力になる

ほんとうの「ガンニバル」のあらすじ

本作の主人公・阿川大吾は、岡山ののどかな山村である“供花村”に、駐在所の勤務員として家族とともに赴任してくる。「駐在さん」と呼ばれ歓迎されるも、間もなく山で死体が見つかったと村人に告げられる。

死体の異変──おそらく何者かの歯形がついている──に気がついた阿川は、“この村では人が喰われるらしい”という噂を耳にし、村で力を持つ後藤家に目をつける。

不可解な出来事が次々と起こる中で、“あの人”と呼ばれる人物が浮上する。

この村で一体、何が起こっているのか。

これが、「ガンニバル」の序盤のストーリーである。

ホラーかヤクザか

先述したとおり、私は「ガンニバル」を「孤狼の血 LEVEL2」のアフターストーリー、つまり阿川が山で目にしたのが“あの人”だったらという妄想として見ていた。

「ガンニバル」の舞台は岡山で、「孤狼の血 LEVEL2」の舞台は広島である。さらに、どちらも暴力事件を起こした警官が、山村の駐在所に左遷されている。

あらゆるものに類似点を見つけるのが好きな私は、第1話を見た段階で「これは『孤狼の血』だ!」と早速テンションが上がってしまっていた。重なりあうのは「山陽の村の駐在さん」という点だけではない。

例えば、暗くエッジの効いた色の出し方が、日本の湿気た質感を漂わせている。それは、「孤狼の血」にも通ずる泥臭さを感じさせながら、「ガンニバル」ではさらに、夏のじめっとした気持ち悪さがそのまま作品全体のトーンにもなっている。

そして何より「孤狼の血」と重ねざるを得なかったのは、「ガンニバル」はヤクザドラマだった、ということである。

このドラマを知ったのは年末年始のテレビCMだった。厳かで不気味な儀式の映像と不穏な表情を浮かべる倍賞美津子、そして大きな男が鎌を振り落とすというシーンの連続に、「ホラーが苦手な自分が見るものではないな……」と思っていたのだけど。しかし、画の綺麗さに興味が湧き、恐る恐る再生ボタンを押した。

第1話の段階でグロテスクな描写や素性の知れない“あの人”の登場など、ホラーが苦手な人間には見るのが苦しい展開が続く。

次第に村人との関係の中で、阿川や後藤家の人々の暴力性が明らかになり始める。気がつけば、阿川と後藤家の人々が和解したり、一触即発の空気になったりとヤクザ映画さながらのハードボイルドな展開に。ホラーへの忌避感など吹き飛んでいた。

「ガンニバル」におけるフィクションな側面を最も担っているのは“あの人”だろう。

テレビCMを見た時は、このドラマは“あの人”に村人が襲われるモンスターパニック系のホラーだと思っていたので、“あの人”の素性がビジュアル的にも少しずつ開示されていくような話の展開を予想していた。しかし、実際には早くも第1話の段階で、“あの人”の全身が映される。何者かはわからないままだが、“どんな奴がいるか“は第1話の段階でわかるのだ。つまり、得体の知れないモンスターである“あの人”に、「ガンニバル」の怖さの力点が置かれているのではないことを示唆している。

私は、このドラマの最大の怖さは“あの人”ではなく、村人だったと考えている。

そして、村人の怖さと、ドラマの見どころのひとつでもある阿川大吾の暴力性は、切っても切り離せないのだ。

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S H A R E
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生活の中で感じたことや考えたことを残しておくのが好きな大学生。その過程を「あの日の交差点」というPodcastやWebサイトにアーカイブしています。