【長崎の郵便配達】過去の過ちを省みず、加害の歴史に蓋をして、被害者の声を踏みにじる行為は冒涜にほかならない

osanai 長崎の郵便配達

1984年に発表されたノンフィクション小説『The Postman of Nagasaki』。著者の娘であるイザベル・タウンゼンドが2018年8月に長崎を訪ね、父が辿った軌跡を追ったドキュメンタリー。
イザベル・タウンゼンドは本作への出演に加え、プロデューサーとして映画づくりにも携わった。監督・撮影を手掛けたのは「紫」「あめつちの日々」の川瀬美香。

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太平洋戦争当時の記憶を持つ人は、今ではかなり減ってしまった。語り継ぐ人がいなければ、人々の意識から戦争の恐ろしさは薄れていく。戦争がどれだけ多くのものを破壊し、どれだけの人が未来を奪われたのか。私たちは知り、語り継いでいく義務がある。

ピーター・タウンゼンド氏による著書『The Postman of Nagasaki』をもとにつくられたドキュメンタリー映画「長崎の郵便配達」では、長崎に原爆が投下された当時の状況が生々しく描かれている。ピーターの死後、娘のイザベル・タウンゼンド氏が語り手となり、川瀬美香監督と共に本作を制作した。

作品の中には、たびたびある男性が登場する。谷口稜曄すみてるさん――1945年8月9日、長崎にて郵便配達の仕事中に被爆した被害当事者である。谷口さんは生前、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員を務め、生涯をかけて核兵器廃絶を訴えた。

元英空軍大佐の英雄であったピーターは、戦後、作家となった。戦争により被害を被った子どもたちにフォーカスしていたピーターは、長崎を訪れた際に谷口さんと出会う。ピーターは谷口さんへの取材を重ね、徐々に2人は親交を深めていく。そうして書き上げた著書が、『The Postman of Nagasaki』である。

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。