【アイ・アム まきもと】体は死んでも、想いは死なない。故人の弔いに心を尽くす牧本が、求め続けた景色とは

以前、牧本と似たタイプの人に出会ったことがある。その人の口癖も、こうだった。

「私には、わかりません」

どうしてわからないんだろう。当時は、そう思っていた。でも、この作品を鑑賞して、少しだけわかった。“どうして”も何もない。ただ単純に、「わからない」だけだったのだ、と。私はその人に対し、言葉を尽くしただろうか。「わからない」を「わかろうとする努力」をしただろうか。そんな後悔が、ちくりと胸を刺した。

「おみおくり係」の廃止を決定した上司が、牧本に「死んだら感情も何もない」と言い放つシーンがある。それに対し、牧本は怒りを隠さずこう言った。

「僕は、そうは思いません」

思いもよらないラストシーンは、そんな牧本の主張に対する“答え”だったように思う。
どこまでもまっすぐで、たまに周囲が見えなくなるほど一直線な牧本。彼の想いと、彼の想いを受け取った人々の行動により叶った景色は、とても温かなものだった。牧本は、がんばった。すごく、すごく、がんばった。

本作品は、蕪木の軌跡を追う旅を通して、牧本がわずかながらに変化していく様が印象的だった。その変化は、ともすれば見落としてしまいがちな、小さな変化であった。だが、彼にとっては、大きな変化だったに違いない。

アイ・アム まきもと。
個性豊かな彼を、私は「すきだ」と思った。人の命を尊み、人の死を悼む。“人として”大切なものを、彼は十分に携えていた。

人は、いつか死ぬ。そのとき、どんなふうに見送られたいかは人により様々だろう。ただ、もしも自分が死んだら、牧本みたいな人に見送られたい。死後の魂の存在を信じ、生前の姿に思いを馳せ、我がことのように丁寧に祈り、手を合わせる。そんな人に見送ってもらえたら、たとえ現世でどんなに辛いことがあったとしても、安らかな心持ちで旅立てるような気がするから。

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■アイ・アム まきもと
監督:水田伸生
原作:ウベルト・パゾリーニ「おみおくりの作法」
脚本:倉持裕
音楽:平野義久
撮影:中山光一
照明:宗賢次郎
美術:磯見俊裕
出演:阿部サダヲ、満島ひかり、宇崎竜童、松下洸平、でんでん、松尾スズキ、宮沢りえ、國村隼ほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。