【アイ・アム まきもと】体は死んでも、想いは死なない。故人の弔いに心を尽くす牧本が、求め続けた景色とは

osanai アイ・アム まきもと

市役所の市民福祉局に勤める牧本壮は、身寄りがなく独りで亡くなった人を無縁墓地に埋葬する仕事に就いている。なにかとトラブルを起こしがちな牧本が、老人・蕪木の身寄りを探し、行く先々で人々との交流を図る物語。
本作は、2013年に製作された「おみおくりの作法(監督:ウベルト・パゾリーニ)」が原案となっている。主演は阿部サダヲ。共演陣に満島ひかり、宇崎竜童、宮沢りえ、國村隼などが名を連ねる。

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「あんた、恐ろしく察しが悪いな」

初対面の人にそう言われるほど、心の機微を読むのが苦手なのは、映画「アイ・アム まきもと」に登場する主人公、牧本壮。思い込んだら一直線。周りの声も、視線も、空気も、一切読まない、気にしない。市役所の「おみおくり係」に勤める彼は、どこか一風変わっている。

「おみおくり係」とは、身寄りのない人が独りで亡くなった際、無縁墓地に遺体を埋葬する仕事である。市役所の中でも珍しいポジションで、「おみおくり係」は彼ひとりが担当していた。

人と人がコミュニケーションを取るとき、誰しもが常にわかりやすい言葉を用いるわけではない。ときには「言葉にしないこと」で伝えたい思いもある。和を保つための謙遜、配慮から出る小さな嘘など、「いちいち確認を取らずとも空気を読む」ことを前提とした、いわば「察する」コミュニケーション。牧本は、そういったやり取りが苦手だ。しかし、自身が決めたルールを遵守し、実直に物事を推し進める行動力と胆力がある。「おみおくり係」は、そんな彼の特性を活かせる職場だったのだが、ある日新しく配属された上司に、「おみおくり係」の廃止を言い渡されてしまう。

牧本が最後に「おみおくり」を担当したのは、公営団地で独りきりで亡くなった老人、蕪木孝一郎。奇しくも、牧本が住む公営団地の別棟が、遺体発見現場であった。蕪木の部屋からアルバムを見つけた牧本は、写真の少女が蕪木の娘であると推測。葬儀に参列してもらうため、蕪木の娘を探す旅に出る。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。