山間部で農場を経営している夫婦、マリアとイングヴァル。ある日、ふたりが羊の出産に立ち会うと、見たこともないような「何か」が産まれてくる。「アダ」と名付けた半人半羊の少女と暮らすが、やがて雲行きが怪しくなり──。
監督を務めるのは、本作が長編デビュー作となるアイスランド出身のヴァルディミール・ヨハンソン。主演のノオミ・ラパスは製作総指揮にも名を連ねる。ヨハンソンと共に脚本を務めたのは、アイスランドの小説家としても知られるショーン。
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おとぎ話のような世界から突然突き放されたラスト、主人公よろしくこれからどうしたらよいのか、映画館で途方に暮れていた。
ハッピーエンドではないことはもちろんのこと、わずかな希望も、こうすべきだという示唆もないまま、置いてけぼりをくらっていた。
吹雪のクリスマスの日に、「何か」が羊小屋に現れるところから「LAMB」の物語ははじまる。聖なる夜の訪ね人が、主人公である夫婦たちの暮らしを不可逆なおとぎ話の世界に放り込んでしまうことになる。
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長い冬を超え、太陽が沈まない白夜の夏。
「それ」は突然産まれた。
荘厳で美しい山々にかこまれたアイスランドの奥地で、酪農を営みながら暮らすマリアとイングヴァルの夫婦。羊の世話をし、トラクターで畑を耕しながら粛々と暮らしているふたりは、厳しい自然の中で生きてきた人特有の顔つきをしている。
いつものように出産する羊の膣から赤ん坊を引きずりだした夫婦は顔を見合わせる。険しい表情をお互いに向けながら、おそるおそる膣から出てきた「それ」を毛布に包み家へと連れて帰った。
アダと名付けられた「それ」は、半分羊で半分人間の形をした羊人間だった。