【ミッシング】救いのない物語で、どうやって「光」を見つけるか

osanai ミッシング

愛する娘が失踪し、何の手掛かりもないまま3ヶ月が過ぎ、両親は焦燥感を抱いていた。そんな中、娘の失踪時に沙織里が“推し”のアイドルのライブに足を運んでいたことが知られてしまう──
監督は「BLUE/ブルー」「空白」の𠮷田恵輔。母・沙織里を演じた石原さとみは、本作が出産後の復帰作である。

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「母親にとって一番つらいんは、子が死んでしまうことやからなぁ」

いつだったか、母が独り言のようにつぶやいた。

はじめての育児に心配が尽きず、慌てふためいているわたしに共感するようにつぶやいたので、よく覚えている。今までごめんとも思った。

これからはわたしも、心配する側に立つ。自分より大切な存在がいるということは、幸せだけど怖いことでもある。

「石原さとみ主演」につられて

久しぶりに映画を観たいと思った。その理由は、大好きな女優である石原さとみさんの出産後の復帰作であることと、彼女が母親役をするという2点だ。

ただし石原さんが演じるのは不幸な母親だという。正直なところ、石原さんに不幸な役は似合わないだろうと思ったし、違和感のある「母親」を観るのは嫌だった。

だけど興味が湧いたのは、本作について石原さん本人がインタビューで語った言葉。「あなたの作品に出たい、わたしを変えて欲しいと吉田監督に直談判した」と話していたのだ。今までの石原さとみ像を壊すような覚悟を見てみたいと思った。

映画がはじまる。

スクリーンを見つめていると、わたしの体内から「石原さとみの映画を観にきた」というモードがしゅわしゅわと萎んでいくのを感じた。石原さんの、あの途方もない美しさが見当たらないのである。あとで調べると、撮影中は添加物の多い食品を食べ、毎日ボディソープで髪を洗っていたらしい。

見た目だけじゃない。まとう空気が違った。目がすわり、おどおどしている。

息を吸い、椅子に座りなおす。わたしが今日、観ようとしているのは女優・石原さとみではなく、とある母親の地獄だ。

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S H A R E
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フリーライター、エッセイスト、Web編集者、ときどき広報。沖縄に10年くらい住んでます。読書と短歌と育児が趣味。