【秘密の森の、その向こう】喪失の先で出会った、ささやかな秘密と癒やしのとき

osanai 秘密の森の、その向こう

最愛の祖母を亡くした少女・ネリー。祖母の遺品を整理するために、かつてネリーの母が幼少期に過ごした森の中の家を訪ねる。森の中を歩いていると、ひとりの少女に出会うのだが──。
監督・脚本を手掛けたのは「燃ゆる女の肖像」のセリーヌ・シアマ。主演のふたりを演じたのは、本作が映画初出演となるジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンスの双子姉妹。

──

時間を超えて、空間を超えて、愛する人に出会えたら。

多くの人が、そんな願いを抱いた経験が一度はあるだろう。特に、唐突な「喪失」によって大切な人を失った場合、その痛みの大きさは計り知れない。間に合わなかった「さようなら」を、一度だけでいい、伝えられたなら。そう願った夜が、かつて、私にもあった。

映画「秘密の森の、その向こう」に登場する8歳のネリーは、大好きだった祖母を失い、悲しみにくれていた。祖母の遺品を整理するため、ネリーは両親と共に、かつて幼い母が暮らした生家へと向かう。その家は、鬱蒼と茂る森の中にあった。

夜中に目覚め、母の寝床に潜り込んだネリーは、囁くようにこう言う。

「さようならを言えなかった」

そんなネリーを強く抱き寄せる母、マリオンもまた、自身の母を亡くした悲しみに打ちひしがれていた。母と暮らした日々を彷彿とさせるノートを目にして、「これを持ち帰るのは気が重いわ」と呟く表情は、いたたまれない陰りを帯びていた。

ネリーが目覚めると、母は姿を消していた。しかし同日、ネリーは母に出会う。自分と同じ背格好をした、8歳の母、マリオンに。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。