そんな2人の関係は、ハウンにジヌという恋人ができることで少しずつ変わり始める。
ただの小さな女の子でしかなかった2人の純真さの上に、層のように降り積もっていくもの。誰かを愛しいと思う気持ち、孤独、言葉にできない寂しさ、強がり、恋心、本当の気持ちを飲み込む代わりについた嘘、無自覚な独占欲、後悔、憧れの人物への陶酔、将来への不安。10年後、27歳になっている自分のことすら想像できずにいる。いくつになっても10年後なんて遠い未来のことだが、17歳にとっては、10年後は100年後と同じくらいはるか彼方にあるものだ。
ある日、ミソは突如島を出る。島を出たかったわけではない。これ以上、ハウンとジヌのそばにいるのが怖かったのだ。心の奥底では、ずっと、それこそ生涯ずっとハウンと共に生きることを望んでいたとしても、離れずにはいられなかった。
作中、ハウンは「무소워(怖い)」という言葉をたびたび口にする。高い所や飛行機も怖ければ、ピアスの穴を開けるのも怖い。島の外の世界に足を踏み出すのにも後ろ向きだ。でも、本当に怖がりなのはミソの方ではなかったか。ハウンと離れるのが怖くて母と別れてでも島に残り、ハウンへの思いの強さゆえに、互いの関係が変わってしまうのを恐れて自ら島を出た。
大切であればあるほど、失うのも怖くなる。居心地のよいこの関係を瞬間冷凍して、永遠のものにしたい。あなたには、そう思う相手はいるだろうか。あるいは、かつて、いただろうか。
幼い頃は、ただ仲がいい、それだけで一緒にいられる。家庭環境や経済状況がどうであろうと。年齢を重ねるごとに、変わりゆく自分や相手、周囲の人々、生活の中のたくさんの要素──いわば、現実──が、私たちの前に立ちはだかる。私が手に入れられなかったもの。あの子が手に入れたもの。私の現実。あの子の現実。自分たち自身も互いの立場や生活も、残酷なまでに変化していく。変わってしまってもなお、私たちは互いを愛せるのだろうか。互いの幸せを心から願えるのだろうか。
仲の良い両親のもとで実家住まいをしながら、恋人と共に学生生活を送るハウン。ソウルという都会でなんとか住まいを得て、心身ともにボロボロになりながら1人孤独に暮らすミソ。2人は何度か再会を繰り返すも、気持ちのすれ違いを重ねる。