【帰らない日曜日】「書くこと」でしか魂は癒されなかった。

3家は互いの家柄に相応しい相手を子に選ばせるべく、交流を続けてきた。そんな思惑など知りようもなかった子どもたちは、自然と親密になっていく。無論ポールとジェームズも仲が良く、ポールは読書家であるジェームズに敬愛の念を抱いていた。エマとの結婚はすなわち、ジェームズへの裏切りだ。義務を放棄することはできない。しかし罪悪感からも逃れられない。そんな葛藤を抱くポールの唯一の理解者が、ジェーンだった。

折に触れてポールは、ジェームズがいかに魅力的な男性だったかをジェーンに聞かせる。本を好むジェーンに「きっと君もジェームズを好きになっていた」と漏らすのだが、ジェーンはそれを間髪入れずに否定する。「私はあなたが好き」と。これほどまでにポールの存在を肯定し、心を満たす言葉はない。驚いたように目を瞠ったあと、ジェームズは「君にはなんでも話せる、皆が避ける話題も」と伝える。

ひとしきり抱き合ったあと、背広を着込んだポールは昼食会へ向かう。ジェーンに永遠のさようならを告げて。その眼には涙が滲んでいたが、けれどもジェーンは淡白だ。なぜならジェーンは、はなから期待などしていなかったから。ポールが行ったあと、ジェーンは全裸のまま屋敷を探検する。ポールのクローゼットに顔を突っ込んでにおいを吸い込み、図書室で本棚を眺め、壁に飾られた絵画を指でなぞり、パイを貪り、ビールを飲み、煙草をふかす。まるで自らの存在を、愛するポールの生家に刻みつけようとするみたいに。

ポールの万年筆と一冊の本を盗み、玄関ホールの蘭の花を一輪もぎ取って腹部に忍ばせると、気の済んだ彼女は帰路に着く。ニヴン家に到着すると、屋敷の前でジェーンの主人であるゴドフリー・ニヴンと鉢合わせる。そこで彼女は、あまりに残酷な知らせを聴いてしまう。

ポールとの関係を知られるわけにいかないため、ジェーンは調理室で咽び泣く。愛するひとを喪った哀しみをだれとも共有できないジェーンは、声を上げて泣くことさえ赦されない。

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S H A R E
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ライター。修士(学術)、ジェンダー論専攻。ノンバイナリー(they/them)/日韓露ミックス。教育虐待サバイバー。ヤケド注意の50℃な裸の心を書く。