【東京裁判】どんな目的であろうとも、どんな意図であろうとも、「戦争」という手段を用いることは間違っている

「人間の條件」「切腹」の小林正樹が、極東軍事裁判(通称「東京裁判」)の記録を、膨大な映像群からまとめた4時間37分におよぶ歴史的ドキュメンタリー。1983年製作、公開。
2019年には、監督補佐・脚本の小笠原清らの監修のもと、修復された4Kデジタルリマスター版が公開された。

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学生の頃、授業で戦争の歴史について学んだ。その内容はどこか偏っていて、一番伝えるべきものが抜け落ちているように思えた。教科書よりも、学級文庫に全巻揃っていた『はだしのゲン』のほうが余程リアリティがあった。「原爆投下」の4文字だけでは伝わらない戦慄と恐怖が、『はだしのゲン』には描かれていた。

広島に原爆が投下された8月6日。長崎に二つ目の原爆が投下された8月9日。終戦記念日の8月15日。8月は、戦争について語る機会が自然と増える。だが、戦争体験者はすでに亡くなっていることも多く、“生きた証言”を聴く機会はずいぶんと減ってしまった。それに付随して、令和の今、時代の流れが変わる潮目にある。

「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(9条1項)、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」(9条2項)とする日本国憲法第9条の改正が必要との声が上がったのは、安倍政権時代。以降、各所でさまざまな意見が衝突している。議論をいっそう加熱させたのは、ロシアによるウクライナ侵攻だろう。そんな今、戦争の実態を伝える映画「東京裁判」の存在は、私たちに直球の問題定義を投げかける。

「東京裁判」は、第二次世界大戦終戦後に開かれた国際裁判の記録で、上映時間は4時間37分に及ぶ。各国の思惑や意見が交錯する中、戦後世界の秩序を定めた裁判記録は、約3万巻もの撮影フィルムに保管されていた。その膨大な記録を総編集した本作では、戦犯を決定するまでの生々しい論争や、戦犯に対する死刑執行の瞬間が克明に描かれている。

当時の陸軍大将である東條英機をはじめ、戦犯として裁判にかけられた全被告は無罪を主張した。しかし、実際には何人かの被告は「無罪」を主張することを潔しとせず、弁護人が説得に苦労したという。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。