それでも愛してる父親たち

弱さや脆さを抱える父親像が描かれる一方、「有害な男らしさ」をもった父親像が描かれた作品もある。

「有害な男らしさ」とは、タフでなければならない、感情は押し殺さねばならないといったステレオタイプな男らしさから外れるものに対して、批判をしたり、危害を加えるものだ。2021年に公開された「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はまさに「有害な男らしさ」を象徴した作品だった。

2023年ではフロリアン・ゼレール監督の「The Son/息子」がそれに当たるだろう。再婚した家族と充実した日々を送る敏腕弁護士のピーター。ある日、前妻のケイトから、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子に違和感があると相談をうける。ニコラスはピーターと一緒に暮らすことを望み、再婚相手の家で共同生活が始まる。最初のうちはニコラスには特に問題がないと思っていたピーターだったが、転校先の学校に初日しか行っていないことを知る。ニコラスは心に病気を抱えており、前の学校でも不登校になっていた。

そんなニコラスを見て、何が問題なのか、解決に取り組もうとするピーター。このまま不登校を続けたら将来、大きな苦労をすることになると伝えたり、ここで逃げるのは男らしくない、と伝えるが、ニコラスには一向に響かない。実は、ピーター自身には自分の父親が仕事ばかりして、自分に気をかけてくれない過去があった。ゆえに一人で強い男としての自分のキャリアをつくってきたという自負とアイデンティティがあり、それを変えることができない。それが、ニコラスとのズレを生んでいた。ステレオタイプな男らしさによって自分の欲しいものを手に入れてきた父親と自分の思い通りに上手く生きれない息子のきしみが、やがて大きな悲劇を引き起こす。

「自分はなんでも解決することができる」いう自信が、ピーターを加害者にも被害者にもしてしまう。

こうあらねばならないという思い込みや、ロジカルに考えれば問題は解決できるはずだという視野の狭さ。頭が良くてタフな人たちばかりで溢れる男だらけの世界でサバイブし続けることが、父親の「本当の/本来の」役割なのだろうか。しかし、ピーターがニコラスを愛していたという事実は本物であり、その無情さが胸を打つ。

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S H A R E
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ライター・編集者。言葉を起点とした関係づくりをしています。映画は年に100本ほど観てます。