笑いあり余韻あり、B級から名作まで。安藤エヌが選ぶ、2022年の忘れられない作品たち

それと、12月16日公開の映画「Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック」。ご縁あってオンライン試写会で観ることが叶ったのだが、本作を観たいと思ったきっかけは、後述する「アフター・ヤン」や大好きな「HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ」などを手掛けるA24スタジオ作品であることだった。ピクサーといいA24といい、私は信頼する映画スタジオならそれがどんな前評判であれ、とりあえず観てみようという精神なのである。

シスターフッドを描いた青春映画と聞いていたので、大好きな「レディ・バード」を思い出しつつA24はどう“調理”してくるだろう……と、ワクワクしながら観た感想としては……まず一言。想像の斜め上をゆくほど、下品でジャンクな映画だった。

だけどどうしてか、嫌いになれない。むしろ好きだ。あまりにもぶっ飛びすぎていて途中から膝を叩いて大爆笑するほどだったので、何もかもがどうでも良くなってしまった。

私の中には許せない下品映画と許せる下品映画があって、前者の頂点に君臨しているのはジム・キャリー主演でコメディ映画の金字塔となった「マスク」の続編、「マスク2」だ。あれだけは個人の都合でどうしても許せない(好きな人がいても無論良いとは思う)のだが、この「Never Goin’ Back ネバー・ゴーイン・バック」はさすがのA24とあってか、下品であっても映画好きのハートを射止めるセンスと愛嬌がある。だから好きなのだ。肉汁ほとばしる特大ハンバーガーを貪っているようなジャンキーな気分になるB級映画として、私のフェイバリット・ムービー・リストに入った作品である。

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映画に比べてドラマはあまり観ないほうなのだが、今年大ハマりしたドラマがある。Netflix配信「HEARTSTOPPER ハートストッパー」だ。

7月のある夜、そういえば気になっていたドラマがあったなとふと思い出し、1話を再生しだしたところ、そのまま明け方5時までノンストップで観続けてしまい、一晩で完走したドラマである。

ジャンルとしては青春クィアドラマで、男子校と女子高を舞台に、それぞれに通う生徒たちが織り成すダイバーシティな恋愛模様をリアルかつキュートに描いている。

これまで様々なLGBTQA+作品を観てきたし、Netflixはその中でも特にクィア作品を多く配信しているが、“クィアについて考える”ということを押し付けず、作品を追いかけることであくまで自然に促し、ティーンたちにも優しく寄り添う作風である点が好感を持てた。実際、私も本作を観て自分のなかの固定概念に気づけたし、知らず知らずのうちに登場人物たちを心から応援している自分がいることにも気づいた。主人公チャーリーの想い人、ニック・ネルソンを演じるキット・コナーに関しては、最近SNS上でジェンダーに対する無神経な詮索や非難を受け、その結果カミングアウトを強要させられてしまうという出来事があった。そうした出来事を受けて、改めて本作が観る者に伝えんとしているメッセージの重要性を強く感じ、考えるきっかけになった。

ただ“今時の価値観を提示している”から“面白い”というだけでなく、未来を生きる上で必要不可欠な考えに至らせてくれた「HEARTSTOPPER ハートストッパー」に心から感謝したい。

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S H A R E
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日芸文芸学科卒のカルチャーライター。現在は主に映画のレビューやコラム、エッセイを執筆。推している洋画俳優の魅力を綴った『スクリーンで君が観たい』を連載中。