笑いあり余韻あり、B級から名作まで。安藤エヌが選ぶ、2022年の忘れられない作品たち

最後に、10月21日公開のA24映画「アフター・ヤン」について。本作はお気に入りの俳優であるコリン・ファレルが出演していることで興味を持った作品だが、観る前から映画好きの友人に熱いレコメンドを受けていた。予告編を観ても好ましい作風なことは分かっていたので、彼女との共通の友人に連れ添ってもらい観たところ、到底一言では言い表せないほどの深い余韻と複雑な感情の渦に飲み込まれた。その余韻は1週間、2週間と私の心の中に留まり続け、気がつけば「アフター・ヤン」のことを考えてしまっていた。

それからしばらく経って、友人たちと作品について語り合う時間を作ることができた。この会話の意図はこうなんじゃないか、このシークエンスには実はこういったメッセージが隠れているのではないか……と、かわるがわる映画のパンフレットを片手に間髪入れず語り合い続け、気づけば3時間ほどが経とうとしている中、私はぽつりと言った。

 「この映画、私が思う以上に、私にとって大事な作品になっちゃった気がする」

友人たちも頷いてくれ、そのとき、ああ、映画が好きでよかったな、と心から感じた。木漏れ日の当たる部屋の、古い木でできた引き出しの中にそっとしまっておきたい映画。そんな風に感じられる映画に出会えたことは、かけがえのない人生の宝物だと思うのと同時に、思いを共有できる友人がいてくれたことにも感謝したくなる、忘れがたい体験だった。

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今年は特に、映画を観る、または観たあとに友人がそばにいてくれて、彼女たちと楽しいことが沢山できた年だったなと感じる。フレンドシップ、ミーツ映画、とでもいおうか。そして、作品を観ることによって思考をまた一段階深くできた年でもあった。

2023年に出会う映画は、私をどのように変化させてくれるだろう。まだ観ぬ映画たちがもたらしてくれる感情に胸を躍らせながら、今年観た作品のパンフレットが並ぶ棚を眺め、満たされながら年の瀬を過ごしたい。

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S H A R E
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日芸文芸学科卒のカルチャーライター。現在は主に映画のレビューやコラム、エッセイを執筆。推している洋画俳優の魅力を綴った『スクリーンで君が観たい』を連載中。