2023年下半期 衰退する洋画興行と戦争に向き合う邦画

そして驚くべきは2本のアニメーションだ。1本は「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」で、同じようなテーマを扱いながら「ゴジラ -1.0」と真逆のスタンスを持つ作品。あの戦争で人々を苦しめた支配構造は、形が変わっただけで戦後の日本にもそのまま受け継がれていることを描く。『ゲゲゲの鬼太郎』の前日譚として、このような物語が生み出されたことは、戦争への嫌悪と恐怖が常に裏のテーマとして流れる水木しげる漫画の精神を極めて正しく継承したものだ。

もう1本は「窓ぎわのトットちゃん」。予告編のほのぼのしたイメージからは想像もできないほどシリアスな内容で、戦争の直接描写はほとんどないにもかかわらず、死と戦争が平和な子ども時代を蝕んでいく様子が、戦慄するほどのイメージで描き出される。宣伝ではその部分をあえて隠したのかどうか分からないが、事前のイメージとのギャップはあまりにも大きい。「戦時下の生活を描いたアニメ」として「この世界の片隅に」にも匹敵する作品だと言える。

この他、未見だが、意外なヒットが話題になっている「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」も太平洋戦争時の特攻隊員の物語。そして塚本晋也の新作「ほかげ」は終戦直後の闇市が舞台だ。

ざっと数えて8本。しかもその多くは興行的にも好調な話題作だ。このような作品群が2023年下半期に集中したのは、企画の経緯や製作の時間軸から考えてもほぼ偶然だろう。だが優れたクリエイターは時代の空気を敏感に察知するもの。ロシアとウクライナの戦争、そしてイスラエル・ガザ地区での虐殺にも等しい戦い……世界は今、ひとつ間違えれば再び大戦につながりかねない空気に満ちている。その予兆が、これらの作品にも反映されているように思えてならない。俗な言い方をすれば「新しい戦前」の予感が、このような作品を生み出す大きな背景となっているのではなかろうか。

なおアメリカ映画「オッペンハイマー」は世界中で大ヒットしたにもかかわらず日本では年内の公開がなされず、本来の系列からすれば配給を担当すべき東宝東和ではなく、独立系の配給会社ビターズ・エンドによって2024年の公開が告知された。国産の戦争関連映画は百花繚乱なのに、アメリカ人が原爆の父を描いた作品が、評判を聞くかぎり原爆を礼賛しているわけでもないのに、通常のルートでは日本公開されなかった……この一件については、公開に至る経緯と共に、2024年の映画界において語られるべき問題だろう。

1 2 3 4 5
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

長年の映画ファン。ほぼ好き嫌い無くどんなジャンルも見ます。本業の半分くらいは書く仕事で、もっと書く場を増やしたいと思っています。写真を撮ることも大好きです。