2023年下半期 衰退する洋画興行と戦争に向き合う邦画

また、ストとは無関係に、シリーズものの衰退も念頭に置くべきだろう。日本でもドル箱だった「ハリー・ポッター」シリーズが2011年に終了したことが、邦高洋低に転じた1つの契機だったことは疑いないし、すでに述べたように「ミッション:インポッシブル」「ワイルド・スピード」にも以前ほどの勢いは感じられない。昨年末からの公開だが、世界的には歴代第3位の興行成績を収めた「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」が、日本では前作の30%にも満たない43億円に終わったことも、「バービー」の不発と並び、日本市場の特殊性を表している。

そして今年はアメコミ映画の株が大暴落した。DCの「ザ・フラッシュ」は爆死。マーベルの「アントマン&ワスプ」「マーベルズ」も極めて低調。「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」は内容的には好評だったが、日本ではそこまで大きなヒットになっていない。この問題について書くと、それだけで1つの長い記事になるので子細には触れないが、一昔前のハリウッド映画を牽引していた大ヒットシリーズがすっかり飽きられているのは明らかだ。この建て直しが上手くいくかどうか、旧来のシリーズものに頼らない新たな方向性を見出せるかどうかに、今後のハリウッドの浮沈がかかっていることは間違いなさそうだ。

そのような流れでは語れない、注目すべき作品について書いておく。

CLOSE/クロース」はカンヌ映画祭でグランプリを受賞した、ベルギー・フランス・オランダの合作映画。少年たちの同性愛を描いた作品かと思っていたら、これがまったく違う。「無垢の喪失」というテーマを、精緻な心理描写と美しい映像で綴った作品だ。思春期ならではの揺れ動く感情は描かれているが、作品全体から得られる感動は全世代に普遍的なもの。「人間が生きることの喜びと悲しみ」を真に描いた作品だと言えよう。

ファルコン・レイク」はカナダのケベック地方を舞台にしたカナダ・フランス合作映画。こちらも宣伝のイメージでは「思春期のひと夏の体験」を描いた青春映画のように思える。確かに表向きはそうなのだが、本作には「死」をモチーフにした裏の顔があり、それが分かった時には全身に鳥肌が立つ。特にあのラストは戦慄を禁じえないもの。大抵のホラー映画が裸足で逃げ出す恐ろしさだ。

下半期では、この「一見、思春期映画のようなふりをして、それをはるかに飛び越えた世界を描く」2本のフランス語映画が圧倒的に強い印象を残した。もろちんどちらもハリウッドとはほぼ無関係な環境で作られた作品。日本ではミニシアター系での公開なので、洋画の興行がどうのこうのという話ともあまり関係がない。

しかし洋画には、ハリウッド作品のようなエンタテインメントや話題性の強いドラマだけでなく、上述したようなアート系作品にも生涯忘れられぬ宝が埋もれている。ハリウッドの混迷は世界の映画産業全体に影響を与えることになるだろうが、ハリウッドはどうであれ、世界各地で良い映画が作られ続けているという事実は、映画ファンに大きな希望を与えることになるはずだ。

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S H A R E
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長年の映画ファン。ほぼ好き嫌い無くどんなジャンルも見ます。本業の半分くらいは書く仕事で、もっと書く場を増やしたいと思っています。写真を撮ることも大好きです。