【月】命は、優劣なくそこに“在る”もの。「優生テロ」事件を正当化しないために、鋭い問いを投げかける挑戦作

osanai 月

重度障害者施設で働くことになった、元作家の堂島洋子。他職員による入所者への暴力に対して憤るが、やがて同僚のさとくんの正義感が暴発していく──。
辺見庸の小説『月』を、「舟を編む」「愛にイナズマ」の石井裕也が映画化。主演は宮沢りえが務める。企画とエグゼクティブプロデューサーを務めた河村光庸は、本作の撮影中に他界。

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「なんのために生まれてきた?なんで生きてるの?」

映画「月」の作中で、「さとくん」なる人物が、重度障害者の「きーちゃん」に対しこう尋ねた。さとくんが発した問いは、私が過去、自身に問い続けてきたものと同質であった。なぜ人は、こうも“命”そのものに意味を求めたがるのだろう。

「知的障害者施設 津久井やまゆり園殺傷事件」をモチーフとした作品

映画「月」は、2016年7月26日に神奈川県相模原市で起きた「知的障害者施設 津久井やまゆり園殺傷事件」をモチーフとしている。本事件の犯人は、植松聖(さとし)。本作では、植松死刑囚の名前にちなんだ「さとくん」と呼ばれる人物が、植松死刑囚と同様の思想と手口で、障害者の大量殺人に及ぶ。

「知的障害者施設 津久井やまゆり園殺傷事件」は、被害人数の多さとセンセーショナルな報道も相まって、未だ多くの人の記憶に焼き付いている。当時26歳だった植松死刑囚は、自身が勤めていた知的障害者施設に刃物を持って侵入し、入所者19人を殺害した。入所者・職員を合わせて、被害者は計26名にものぼる。

「意思疎通ができないと考える重度障害者は不幸であり、その家族や周囲も不幸にする不要な存在である。よって、重度障害者を安楽死させる社会が実現し、重度障害者に使われていた税金を他に使えるようになれば、世界平和につながる」

これが、植松死刑囚が凶行に及んだ動機である。あまりに身勝手で独善的な動機だが、事件当時、植松死刑囚に賛同の意を示す声がネット上でも少なからず散見された。

「優生思想」は、優生保護法が撤廃された現代でさえ、社会に根強く残っている。実際に行動に移さずとも、植松死刑囚と同様の思想を持っている人間は残念ながら少なくない。

排除される側の恐怖を知らずに生きていける。その特権を生まれながらに持っている人もいれば、先天的に持たない人、後天的に奪われる人もいる。この世界はどこまでも理不尽で、不平等で、残酷だ。

ちなみに私は、排除される可能性を持つ側の人間である。幼少期に受けた両親からの虐待により、精神に障害を負った。現在は障害者2級の診断を受け、障害年金を受給しながら生計を立てている。

偏見や差別に晒されるのは日常茶飯事で、SNS上で「生きている意味のないクズ」とまで言われたことがある。これが、障害者が日々直面している現実だ。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。