フランス北部の町で、女性作家のラマが傍聴した裁判。生後15ヶ月の娘を海辺に置き去りにしたロランスが殺人罪に問われていた。
監督はドキュメンタリー作品「私たち」を手掛けたアリス・ディオップ。小説家のマリー・ンディアイが共同脚本として参加している。主演はカイジ・カガメとガスラジー・マランダ。
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ありふれた裁判
宝くじの高額当選者数を知っているだろうか。
令和3年度の1億円以上の高額当選本数は284本である。東京の高額当選者数は24名(2021年)。割合にすると100万人に1.7人であり、交通事故で死亡する割合(100万人に9.6人)よりも低い。
僕は高額当選者に会ったことがないし(当選していたとしても隠している場合が大半だろうが)、近しい人を交通事故で亡くしたこともない。
僕の知らないところで、宝くじに当選して億万長者になる人は31時間に1人生まれ、交通事故で3日に1人亡くなっている。僕が見ているものだけが世界でないし、世界は僕の周りだけで完結しているわけではない。改めて言葉にするまでもなく世界とはそのようなものだ。
さて。
日本で虐待を受けて死んだこどもの数は49人である(令和2年)。そのうち、実の母から虐待を受けて死んだのは29人、そのほとんどが0歳児だ。2週間に1回母が子を殺している世界に、2週間に1回子を殺した母を裁いている世界に僕は暮らしている。
だから、フランス北部の町サントメールで起きた「20代前半の黒人女性が生後15か月の娘を夜の海に置き去りにして殺害した」という事件は特段珍しいものではない。