【君たちはどう生きるか】誰の心にもある“悪意”の芽。矛盾する感情を抱えた上で、私たちは「どう生きるか」

osanai 君たちはどう生きるか

母親を亡くした少年・眞人。父親とともに栃木県に疎開するも、その地で出会ったアオサギに不思議な塔へと導かれていく──。
原作・脚本・監督は宮﨑駿。主人公の眞人には18歳の山時聡真が抜擢された。

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宮﨑駿監督が「引退宣言」を撤回し、7年という歳月をかけて制作した映画「君たちはどう生きるか」。第二次世界大戦下の日本を舞台とした本作では、冒頭で主人公・眞人の母が火事で命を落とす。だが、その後はリアルな戦争の場面はほぼなく、スタジオジブリが得意とする冒険活劇への幕が一気に開かれる。

眞人が母を亡くしたのち、父は母の妹であるナツコと再婚した。ナツコがすでに父の子を身籠もっていたため、眞人と父は戦火の激しい東京を離れ、田舎にあるナツコの生家に身を寄せる。そこは驚くほど大きな屋敷で、広い敷地内には不思議な塔が建っていた。その塔に引き寄せられるように入り込んだ眞人は、その日以降、「人間の言葉を話す」アオサギにまとわりつかれるようになる。

アオサギは、「母親は死んでいない」という言葉を餌に、執拗に眞人を塔の中におびき寄せる。その言葉を信じきれず、かと言って無視もできず、アオサギに翻弄される日々が続く中、つわりで伏せっていたはずのナツコが行方不明になってしまう。ナツコの身を案じた眞人は、屋敷に仕えるひとりの老婆と共に、森の奥にある塔へと足を踏み入れる。そこは、普通の世界とは大きく異なる、摩訶不思議な世界への入口だった。

眞人は当初、父の再婚相手であるナツコに対して複雑な感情を抱いていた。年頃の眞人にとって、「父が再婚すること」も「再婚相手がすでに妊娠していること」も、容易に受け入れられるものではなかったのだろう。その上、ナツコの顔は眞人の実母にそっくりだった。思春期の眞人が混乱するのも無理はない。それでも、行方不明になったナツコを放ってはおけず、危険を承知で眞人は塔へと向かう。その姿は、さまざまな矛盾を抱えて生きる“人間”という生き物を如実に象徴しているように思えた。

親が再婚することを手放しで喜べない子どもは多い。実の母、もしくは実の父の存在が心に深く根付いていればいるほど、どうしても比べてしまう。また、自分の親が恋をしている姿に嫌悪感を覚える場合もあるだろう。私自身、数年前に離婚して現在は新しいパートナーと共に暮らしている。息子たちとパートナーは仲良く接しているように見受けられるが、息子たちの胸中にも複雑な感情が渦巻いているのかもしれない。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。