【キャッシュの香り】持たざる者の大革命

復讐は、冷めてから召し上がれ

ソヴァールがブレイユに反逆したのは「復讐」のためだ。復讐は、やり遂げたとて残るのは虚しさばかり。というのが定石だが、後味さわやかな復讐劇をみせてもらった。

フランスには「復讐は冷めてから味わえ」ということわざがある。冷めた方が味わい深くなる料理があるように、怒りが鎮まってから復讐した方が喜びが大きいという意味だ。たしかに、沸騰した頭で復讐方法を考えるよりも、冷静に相手を追い詰めることができそうだ。幼い頃から復讐のためにブレイユを観察していたソヴァール。彼が復讐に向ける温度は冷め切っていた。

はじめは同じ工場で働く親友とタッグを組んでいたが、会社の運用システムが変わったことによってピンチに見舞われる。そこで登場するのが人事部長を務めるヴァージニーだ。

彼女を演じるのは映画「TITANE チタン」で狂気の魅力を放っていた主演のアガト・ルセル。ソヴァールとはバーで出会うが、彼がヴァージニーをナンパしはじめた時は思わず逃げて!!と念を送ってしまった。それほど「TITANE チタン」での演技でトラウマを植え付けられた女優だ。しかし、この物語において、彼女は勝利の女神だった。

出向から戻ったら総支配人へと昇進させるという約束を社長から反故されていた彼女は、会社に不信感を募らせていた。会社に復讐したい内部事情に詳しい人事部長と、新しいシステムを攻略したいソヴァールの利害は一致。彼女も晴れて仲間になった。会社に忠誠を尽くしていた女が復讐者へと転じる時、その威力は凄まじい。

新たなシステムは、香水の箱の中身まで数を感知しない。それによって取りこぼしてしまう在庫は1.1%で売り上げに換算すると200万ユーロに及ぶ。スピードを優先した結果、切り捨てた1.1%が金脈になった。ヴァージニーは人事部長の特権で新たな仲間を選定し、システムの死角につけこむ横流し方法を考案した。

「アリの穴から堤も崩れる」という日本のことわざが劇中にも引用されていたが、たった200万ユーロだと切り捨てた1.1%の穴から、アリたちの反逆がはじまった。

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S H A R E
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最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。