【キャッシュの香り】持たざる者の大革命

「壁」をぶち壊した先に

権力は、大きな壁となって人の前に立ちはだかる。映画の冒頭で「レゲエのドラムロールはバビロンの壁を撃つ大砲の音」という豆知識が登場した。バビロンとはメソポタミアの古代都市のことだが、レゲエの文脈では「権力を持った人間によって牛耳られた仕組み」という意味で使われている。バビロンとはブレイユのことであり、ソヴァールたちは権力に立ち向かう、持たざる人たちだ。

先代の急死によって社長へ繰り上がった息子・パトリックにも、いつも父の壁が立ちはだかっていた。彼は壁の内側に閉じ込められていて、父という壁が取り払われてもなお、脱出することができないままだ。しかし近しい人の裏切りによって、彼も壁を壊す決心をする。外から、中から、ブレイユを取り囲む巨大な壁をぶち壊すことによって、はじめてみんなが平等になっていく。

人は生まれつき自由で平等というのは、上に立つ人間の綺麗事にすぎないと思うが、誰でも「手札」を持っている。「家柄」「容姿」「知性」「身体能力」という生まれつき持っている手札から「リーダーシップ」「ユーモア」「知識」という努力をすれば手に入れられる手札まで。自分はなんの手札を持っているのか、どう勝負していくのか。手札の掛け合わせや出すタイミングによって、人生を切り開く可能性を秘めている。

ソヴァールたちのチームもそれぞれが持つ手札を生かした采配で香水をぶんどり、ブレイユを守っていた壁に風穴を開けた。

あなたにとっての人生の彩りは?

といっても、彼らがおこなっているのは立派な犯罪。いよいよ会社に香水の在庫がなくなっていることがバレ、犯人特定は免れない状況に陥ってしまう。潮時だと説得するヴァージニーを、ソヴァールは突っぱねる。「君は人生の彩りを忘れている」と。

人生の彩りとはなんだろう。彼にとってそれは、自分で手に入れた景色を指すのではないか。ブレイユに与えられた職で生活していたソヴァールにとって、日々はモノクロだった。香水の横流しをあくまでビジネスだと言い張ったのは、ただの犯罪を乗り越えた先を見据えていたからかもしれない。

はじめは辛気臭い顔をしていたソヴァールの顔も、だんだんと生き生きしていった。天下をとりたいと願った彼が最後に手にいれた景色に、「あっぱれ!!」と拍手してしまった。

──

■キャッシュの香り(原題:CASH)
監督:ジェレミー・ローザン
脚本:ジェレミー・ローザン、ビクトル・ローデンバック、オーレリアン・モラス
撮影:マシュー・プレンフォセ
音楽:ダビッド・シュタンク
出演:ラファエル・クナール、イゴール・ゴーツマン、アガト・ルセル、アントワーヌ・グイ、ニナ・ミュリス、グレゴワール、コラン、ユーセフ・ハイディほか
配信:Netflix

(イラスト:Yuri Sung Illustration

1 2 3
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

最近会社を辞めました。登山しながら、書きながら、暮らしていけたら最高です。