「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」(監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン)のように、言葉を失うほど圧倒的な映画体験を覚えるような作品も、僕は「いい映画」だと思う。
紛れもなく「いい映画」だし、そういった作品が報われること、つまりは映画史に残るような作品となることを強く願っている。
「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」に関しては、たぶん、僕がこの作品を10代前半で観たならば、その日から一生懸命、英語を勉強するようになったのではないか。マイルスやグウェンのやり取りは、字幕で十分理解できるけれど、会話の節々に垣間見る言葉の機微を、僕はちゃんと英語で理解したいと思った。(おじのお別れパーティで「Rest In Power」という表現があったり、宿敵を倒すためには「More Holeが必要だ」と言ったり、ああ、こういうの日本語だと表現が難しいよなあと痛感した)
僕は大学時代に聴いたロック・ミュージックで、イングランドへの憧れが募った。日本に来日したアーティストのライブや野外フェスでパフォーマンスを観ることも可能な時代ではあるけれど、現地の熱気で溢れたライブハウスでの「Gig」は、現地でしか味わえないものだった。
原体験は、どんな種類のものでも良い。大袈裟なものでなくても構わない。
けれど、若いときに読んだり聴いたりしたものは、確実に自分自身の血肉になっているはずだ。そんなことを「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」は思い出させてくれた。
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「いい映画」は、乗り物のようなものだ。
三輪車にも、自転車にも、船にも、車にも、飛行機にも、ロケットにもなり得るもの。ちょっとだけ近い場所に行くこともできれば、すごーーーーーく遠い世界にトリップすることもできる。
2023年に観た映画で、あんまりピンとこない作品も確かにあった。でも時を経て、「もう1回観たら、めちゃくちゃ面白かった」なんてこともあったりする。乗り物を、ちゃんと乗りこなせるようになっているということだろうか。
osanaiでは、「2023年上半期の映画振り返り」ということで、3名の方に寄稿いただいた。ぜひそちらも読んでもらえると嬉しいです。
ということで、野郎ども。港に別れを告げ、良き旅に出掛けましょう。