【天間荘の三姉妹】この世界は、案外捨てたもんじゃない──もしも私が、生死の選択を迫られたなら

三ツ瀬の街が存在する理由。魂を癒やす場所を欲した人々が、伝えたかった想いの行き先。その真実を知った瞬間、熱い滴が頬をつたった。とめどなくあふれるそれを、拭わずそのままにした。流れるごとに、体中から毒素が抜けていくような心地がした。

人は死んだら終わりじゃない。魂は実体を持たないが、私たちのすぐそばにある。魂の存在に科学的根拠はないが、私は信じたい。それらしい存在を何度も肌で感じていたし、信じることで心が救われた。何より、魂だけではなく、誰かの記憶の中で、故人は生き続けるのだ。

この映画は、生き残った人たちのために作られた鎮魂歌だ。人の死は現実のもので、大抵の現実は、創作よりもはるかに残酷である。だからこそ、救いを求めて作品を創る人たちがいる。その想いが、遠い空の彼方にまで届くといい。あの空の向こうには、私の友人たちも大勢眠っているはずだから。

東北の港町で生まれた私が、生きることを時々放棄したくなる私が、いま、この作品に出会えたことには、きっと意味がある。「生きろ」と、言われたような気がした。「お前は選べるだろう」と、背中を蹴飛ばされたような気がした。蹴られた背中は、まだじんじんと痛む。だが、この痛みは、きっと忘れてはいけないものだ。

親に虐げられ続けて、10代で家を飛び出した。あの当時、家を出てすぐの頃の私なら、天間荘で選択を迫られた際、「死」を選んでいたかもしれない。でも、今は違う。今、もしも臨死状態に陥ってあの宿に滞在したとしたら、私は迷わず答えるだろう。「生きたい」と。

天間荘は、私たち一人ひとりの心の中にある。選択に迷ったら、思い出そう。「死にたい」もしくは「消えたい」と望む自分を否定するのではなく、そう望むに至った原因を取り除くことこそが、本来必要なのだと。そのためにも、魂を癒やす時間は必要だ。だからちゃんと癒やして、ちゃんと休んで、ゆっくり取り戻せばいい。その上で選べば、きっと道は開ける。

生きていれば、苦しみや悲しみは存外多い。それでも、この世界は案外捨てたもんじゃない。私が死んだら、悲しむ人の顔が、明確に頭に浮かぶ。それも、ひとりではなく何人も。だから私は、これから先も「生きる」道を選び続ける。そうしていつか寿命が尽きたら、そのときは空を昇ろう。三ツ瀬の夜空を舞った、多くの魂たちのように。

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■天間荘の三姉妹
監督:北村龍平
原作:高橋ツトム『天間荘の三姉妹 -スカイハイ-』
プロデューサー:真木太郎、和田大輔
脚本:嶋田うれ葉
音楽:松本晃彦
撮影:柳島克己
美術:三ツ松けいこ
照明:加持通明
主題歌:玉置浩二 feat. 絢香「Beautiful World」
出演:のん、門脇麦、大島優子、三田佳子、永瀬正敏、寺島しのぶ、柴咲コウほか
配給:東映

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。