【天間荘の三姉妹】この世界は、案外捨てたもんじゃない──もしも私が、生死の選択を迫られたなら

osanai 天間荘の三姉妹

天界と地上の間のある街・三ツ瀬にある老舗旅館「天間荘」。旅館を切り盛りする親子のもとに、現世で交通事故に遭い、臨死状態となったたまえという少女がやって来る。現世に戻るのか、天界へ旅立つのか、決断に至るまでの物語。
髙橋ツトムによる漫画『スカイハイ』の映画化を手掛けた北村龍平が、本作でも監督を務める。プロデューサーは「この世界の片隅で」を手掛けた真木太郎。三姉妹を、のん、門脇麦、大島優子が演じている。

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時々、唐突に「消えたい」と思う。それは、「死にたい」とは少し違う感覚だ。

「生きるのに疲れた。でも、死ぬことには恐怖を感じる」
そんな中途半端な立ち位置で、どちらにもいけず、どちらも選べず、ジタバタともがいている。

現世とあの世。その境目に、もしも“生死の選択を許された場所”があったなら、今の私は、果たしてどちらを選ぶだろう。

美しい海を見下ろす高台に、老舗旅館「天間荘」がある。普通の旅館に見えるが、天間荘は、天界と地上の間にある三ツ瀬の街に建つ、「魂の疲れを癒やす宿」だ。天間荘を切り盛りするのは、若女将ののぞみと、妹のかなえ。そして、気性も口も荒い二人の母親、恵子が大女将を務める。3人が暮らす宿に、ある日、たまえと名乗る少女が訪れる。たまえは、のぞみ、かなえの腹違いの妹で、交通事故によって臨死状態にあった。

「天間荘で魂の疲れを癒やし、肉体に戻るか、そのまま天界へ旅立つかを決めればいいわ」

案内人イズコの言葉に、曖昧に頷くたまえ。彼女は事故前後の記憶がなく、自分の状況を把握しきれないまま、天間荘にやってきた。なりゆきから、たまえは客人ではなく、旅館のスタッフとして働きはじめる。しかし、天間荘はあくまでも“仮の宿”。いつまでも留まれる場所ではない。そのことに気付く頃には、たまえは姉たちに深い情を抱きはじめていた。

ようやく会えた家族を失いたくない。
そんな彼女の願いは、三ツ瀬の街が持つ本来の役割を知ったとき、涙と共に姿を変える。

「天間荘の三姉妹」──何やら訳ありな三姉妹なのだろうと、映画のタイトルから想像はついていた。しかし、ここまで訳ありだとは、思いもよらなかった。まさか姉二人はすでにこの世の者ではなく、末の妹も臨死状態にあるとは。しかも、大女将である彼女たちの母親は、気性の荒さゆえ、親子間のみならず客人ともしばしば口論を起こす。

人生に嫌気がさして飛び降り自殺をはかり、天間荘にやってきた優那に対し、大女将がこう言い放つシーンがある。

「あんたは、私たちと違って選べるんだ!」

「選べる」──この言葉を聞いて、思わずハッとした。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。