“理念”は、虐殺を正当化する名分に過ぎなかった
済州島4・3事件は、長年タブー視されていた。2000年に「4・3特別法*」が施行されるまで、被害者や被害者遺族の尊厳は踏みにじられ続けてきたのである。2003年、当時の盧武鉉大統領が「公権力による虐殺」を認めて謝罪した。しかし、長年にわたり就職や結婚において差別・迫害を受けてきた被害者遺族の苦しみは消えない。
ヤン監督とパートナーの香織と共に、オモニがようやく訪れた済州島4・3事件の追悼式典で、印象的なスピーチがあった。
「理念は虐殺を正当化する名分に過ぎませんでした。今我々は、歴史を直視すべきです。不幸な歴史を直視することは、国と国の間でのみ必要なことではありません。私たち自らも、4・3を直視する必要があります」
戦争、内紛、暴動、虐殺。本来であれば「傷害」「殺人」「器物破損」の罪となる行為が、何らかの大義名分があればまかり通ってしまう。人を1人殺せば殺人罪なのに、戦争では100人殺せば英雄となる。その道理がどれほど誤っているか、私たちは今こそ真剣に考える必要がある。
オモニの婚約者は、オモニが愛した人だった。「3万人」の被害者それぞれに守りたい人がいて、大切に思う人がいて、その人の人生があった。“国”は本来、そういう思いや権利を守るべき存在だ。虐殺を正当化し、人に人を殺させることを是とするものを、私は「国」とは呼びたくない。