【スープとイデオロギー】拳銃ではなく鍋を手に、殺戮ではなくスープのレシピを

osanai スープとイデオロギー

朝鮮総連の熱心な活動家だった両親のもとに生まれた娘のヨンヒ。大阪で一人暮らしをしている年老いた母を撮影していると、韓国における島民虐殺事件「済州4・3事件」の渦中にいたことを突如告白する──。
監督は「ディア・ピョンヤン」、「かぞくのくに」のヤン ヨンヒ。ヤン監督のパートナー、荒井カオルは本作への出演およびエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねている。

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「イデオロギー」とは、社会のあり方に対する考え方を意味する言葉で、今日では「政治に関する思想・信条」といった意味として使われることが多い。「スープとイデオロギー」──「スープ」が持つ温かな言葉のイメージに対し、「イデオロギー」が持つそれは、社会課題や現実の厳しさを直視する覚悟を感じさせる。しかし、真逆のように思われる単語が並んだ本タイトルの映画を鑑賞して、その2つが生活に根ざしたものであり、人間を形成する大きな要素となっていることを知った。

ヤン ヨンヒ監督の母(オモニ)に焦点を当てたドキュメンタリー

本作でメガホンを取るのは、「ディア・ピョンヤン」「かぞくのくに」などで朝鮮半島と日本の歴史のうねりを描いたヤン ヨンヒ。在日コリアン家族として生きる彼女が、自身の母の知られざる過去に迫り、母のイデオロギーの根幹に触れるドキュメンタリー作品である。ヤン監督、ならびに家族の人生を生々しく描いた本作では、過去に起きた「済州島4・3事件」について掘り下げている。尚、本記事ではヤン監督の母のことを、作中の呼び名にならい「オモニ」と記す。

ヤン監督の両親は、朝鮮総連の熱心な活動家であった。1970年代に「帰国事業」で3人の息子たちを北朝鮮へ送り出したが、そのことがきっかけでヤン監督の長男は精神を患い、若くしてこの世を去った。オモニはそんな息子たちの生活を案じ、父の他界後も息子たちへ多額の仕送りを続けていた。

やがて年老いたオモニは、大動脈瘤の治療を終えたのち、突如「済州島4・3事件」について語りはじめる。オモニが語った内容は、聞いているだけで肌が粟立つほど凄惨なものだった。その後、オモニはアルツハイマー型認知症を発症。母の記憶をたどるように、ヤン監督は自身のパートナー・荒井香織かおると共に、オモニを済州島へ連れて行くことを決意する。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729