最初に私は『英語でのタイトルが「Poor Things」だったので、例えば障害を持たれた方々やマイノリティと言われる方々の物語なのか?』と、記したが、これは大きな間違いだった。自分のことしか考えない、外面が良いだけの表面的な人間たちがベラの純粋な強さに負け、堕落していく姿が哀れだったのだ。
この物語では、心が綺麗で偏見のない人たちが最終的に幸せになっている。ベラとゴッドの弟子であるマックスの挙式のシーンではその純粋さに涙を流してしまった。作品全体を通してとても感情が揺さぶられた。そして今の社会に対する皮肉を多く見受けられた。『正直者が馬鹿を見る』この現代社会の歪みに対してのメッセージを私は感じたからだ。
正直私も、表面的な世界でしか生きておらず常に人のことを見下している哀れな人をよく見る。人の良いところではなく、悪いところばかりを探して、馬鹿にして、人を下げることでしか、自分の凄さを見せられない、そのような人をよく見る。しかし現実社会では案外そういった人が評価されて得をすることが多い気がする。この現状に日々反吐が出そうになる私からすると、とても共感性の高い作品であった。衝撃的な描写は多いが、内容としては共感が多いのだ。
ただ、一点伝えたいのは、人を下げて馬鹿にしている人を馬鹿にしている私もまた、クソな人間ではあるということだ。
更に忘れてはいけないことが一つある。ベラ役のエマ・ストーンさんの演技だ。見た目は一緒のはずなのに、精神年齢が上がる毎に変化する、本当にその年代に見える仕草や喋り方はこの作品に欠かせないと思う。序盤は赤ちゃんに見えるし、途中は頭でっかちな思春期に見えて、正義感のある強い女性になったり、余裕のある大人な女性になったり、人としての成長をしっかりと魅せてくれる。もちろん他のキャストの皆様の演技力の高さも脱帽ものである。というより、演技なのかリアルなのか分からない領域までのめり込ませてくれる。
ここまでダラダラと書いてきたが、最後に伝えたいことは、この【哀れなるものたち】という映画は観てほしいけど観ないほうが良い作品だということだ。なぜなら、表面的で自分のことしか考えられない感性の乏しい人にはきっと退屈な2時間になってしまうからだ。そして、なんとか文章を書き終え、賞賛を欲している私は、とても哀れな感性の持ち主である。
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■哀れなるものたち(原題:Poor Things)
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:トニー・マクナマラ
撮影:ロビー・ライアン
プロダクション・デザイン:ジェームズ・プライス、ショーナ・ヒース
衣装デザイン:ホリー・ワディントン
ヘア&メイクアップ&装具:ナディア・ステイシー
音楽:ジェースキン・フェンドリックス
サウンドデザイン:ジョニー・バーン
出演:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット、スージー・ベンバ、ジェロッド・カーマイケル、キャサリン・ハンター、ヴィッキー・ペッパーダイン、マーガレット・クアリー、ハンナ・シグラほか
配給:ディズニー
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/poorthings
(イラスト:水彩作家yukko)