【フローラとマックス】愛すべきクソババアになるために

衝撃的な母親がもっているもの

フローラは最初から最後まで、一貫して衝撃的な母親だった。

自己犠牲をしないし、自分のストレスに敏感で、息子のストレスに鈍感だ。いや、気付いてるけど無視しているのかもしれない。常識もない。

「普通の母親」ができるほとんどのことを彼女はできない。
だけど「普通の母親」がやらないことをたくさんやっていた。

野生的に生きること、恋をすること、自由を求めること、自分の幸せを諦めないこと、常識で人をジャッジしないこと、常識で自分をジャッジさせないこと。

たとえば別居して彼女と一緒に暮らす夫に対して、常識を盾に争いはしない。嫌味を言ったり、彼女のお尻が垂れていると悪口を言ったりはするけれど。誰かや何かと対峙する時に彼女が武器として持つのは、自分の感情ひとつなのだ。

ギターの講師と本音を打ち明け合うシーンがあり、講師はこんなことを言った。

「断酒会に参加して子どもを『優先』することを学んだよ」

この時の講師の表情にひどく胸が締め付けられた。
これで良かったと、自分に言い聞かせるような表情をしていたからだ。

私はふいに、自分の母親を思い出した。もともとシングルマザーだった母は、早朝から夜中まで働き、おそらくあらゆることを諦めて私と弟を育てた。フローラとは正反対の育児をしてきたと思う。

感謝している。とても。

だけど私は、もしも母がフローラのように生きていたら嬉しかったかもしれない。

きっと盛大にグレるとは思うけど、だけど親が絶対に自分の幸せを手放さない姿を見続けることは、人生にやさしい影響を与える気がしてならない。

きっと母は、フローラのような母親を軽蔑するだろう。だけど私は、フローラを笑い飛ばせる母であって欲しいと願ってしまう。

1 2 3 4
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

フリーライター、エッセイスト、Web編集者、ときどき広報。沖縄に10年くらい住んでます。読書と短歌と育児が趣味。