雨の宮古島、人間らしさとAIと。

「aftersun/アフターサン」と「それでも私は生きていく」の“人間らしさ”

2023年の上半期に公開された中から、人の不完全さや曖昧さ、その味わい深い“人間らしさ”が胸をうつ映画を2つ紹介したい。

まずひとつめ「aftersun/アフターサン」は、31歳の父親と11歳の娘がリゾート地で過ごすひと夏の思い出を、当時の父親と同じ年齢になった娘の視点から描いた映画だ。もの悲しい空気が終始漂うこの作品は、説明がほとんどない。

なぜふたりは離れて暮らしているのか。なぜ父親はずっとどこか悲しげなのか……。

その答えのヒントは、父親が持参したビデオカメラの映像や、何気ない会話や、さりげないショットにちりばめられている。

日常生活においても、人の気持ちの機微はささいなひとことや無意識で向けられた視線、ふとした仕草に現れるものだ。この親子と同じ経験があるわけではないが、今作を観て胸が締め付けられたのは、説明的ではない人間の心の機微が丁寧な演出とカメラワークで表現されていたからだった。

ふたつめの「それでも私は生きていく」は、シングルマザーで娘を育てるサンドラ(レア・セドゥ)が父親の介護と、久しぶりの恋に奔走する姿を描いた映画だ。痴ほうが進む父親に寂しさを感じているサンドラだが、同時に恋心で浮ついている。喜びと悲しみが共存する心の複雑さこそ、”人間らしさ”だ。

作中、父親の書棚を整理しながらサンドラが言った台詞が印象深い。「選んだ本から人間性が見える。それぞれの本に色があって合わせるとパパの肖像画になる」という台詞だ。

このシーンを観ながら、私は昨年亡くなった祖父を思い出していた。

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S H A R E
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1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。