「aftersun/アフターサン」と「それでも私は生きていく」の“人間らしさ”
2023年の上半期に公開された中から、人の不完全さや曖昧さ、その味わい深い“人間らしさ”が胸をうつ映画を2つ紹介したい。
まずひとつめ「aftersun/アフターサン」は、31歳の父親と11歳の娘がリゾート地で過ごすひと夏の思い出を、当時の父親と同じ年齢になった娘の視点から描いた映画だ。もの悲しい空気が終始漂うこの作品は、説明がほとんどない。
なぜふたりは離れて暮らしているのか。なぜ父親はずっとどこか悲しげなのか……。
その答えのヒントは、父親が持参したビデオカメラの映像や、何気ない会話や、さりげないショットにちりばめられている。
日常生活においても、人の気持ちの機微はささいなひとことや無意識で向けられた視線、ふとした仕草に現れるものだ。この親子と同じ経験があるわけではないが、今作を観て胸が締め付けられたのは、説明的ではない人間の心の機微が丁寧な演出とカメラワークで表現されていたからだった。
ふたつめの「それでも私は生きていく」は、シングルマザーで娘を育てるサンドラ(レア・セドゥ)が父親の介護と、久しぶりの恋に奔走する姿を描いた映画だ。痴ほうが進む父親に寂しさを感じているサンドラだが、同時に恋心で浮ついている。喜びと悲しみが共存する心の複雑さこそ、”人間らしさ”だ。
作中、父親の書棚を整理しながらサンドラが言った台詞が印象深い。「選んだ本から人間性が見える。それぞれの本に色があって合わせるとパパの肖像画になる」という台詞だ。
このシーンを観ながら、私は昨年亡くなった祖父を思い出していた。