ラストシーンのふたりは、とびきりロマンチックだった。ぼくはそう、肯定したい。あれは天罰でも贖罪でも、ましてや悲劇なんかでもない。ふたりにとってこれ以上ないほどの、青春ラブロマンスにふさわしい、カタルシスをもたらすハッピーエンドだ。
人は生まれを選べない。肌の色、人種、階級、母国語、セクシュアリティ、両親、身体、才能、習性。そしてそれがときに、だれかを取り返しのつかないところまで損なう。ぼくたちは多かれ少なかれ、だれしもが他者を搾取し、そして搾取されながら生きている。結婚後に改名と胸オペを選択したぼくは、元々はヘテロセクシュアルだった夫を混乱の渦に突き落とした。「韓国人ってなんか嫌いなんだよね」と呟いた元恋人に、理由を告げず──カムアウトをしないまま別れを告げた。ぼくを蹂躙した父親を、人生から切り捨てた。
生きるということはすなわち、だれかを損ない続けることなのかもしれない。だけど願わくばだれも奪わずに、傷つけずに、生きていきたい。それはどう足掻いたっておよそ不可能な、理想論に過ぎないけれど。でも、だからこそ、人は人を愛さずにはいられないのだろう。
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■ボーンズ アンド オール(原題:Bones and All)
監督:ルカ・グァダニーノ
脚本:デビッド・カイガニック
原作:カミーユ・デアンジェリス『ボーンズ・アンド・オール』
製作:ルカ・グァダニーノ、デビッド・カイガニック、テレサ・パーク、マルコ・モラビート、フランチェスコ・メルツィ・デリル、ロレンツォ・ミエーリ、ガブリエーレ・モラッティ、ピーター・スピアーズ、ティモシー・シャラメ
撮影:アルセニ・カチャトゥラン
美術:エリオット・ホステッター
編集:マルコ・コスタ
衣装:ジュリア・ピエルサンティ
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
出演:テイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ、マーク・ライランス、マイケル・スタールバーグ、アンドレ・ホランド、クロエ・セビニー、デビッド・ゴードン・グリーン、ジェシカ・ハーパーほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
*1:「同族」という言葉は、劇中でイーターが自分たちを指す表現として使われている。
(イラスト:Yuri Sung Illustration)