生まれながらに人を喰べる衝動を抑えられない少女マレンは、18歳のときに父と離別する。母親を探す旅に出る中で、同族のリーやサリーに出会う。彼らの逃避行の結末はいかに──
「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメが再タッグを組む。主人公の少女・マレンを演じるのは「WAVES ウェイブス」のテイラー・ラッセル。
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“I thought I was the only one”──「私だけだと思ってた」。
人を喰らう衝動を抑えられない18歳のマレンの圧倒的な孤独に、心臓を貫かれた。マイノリティ属性を持つ人間ならば、だれもが彼女に共感するだろう。この台詞を聴いた瞬間、自らがこれまで嫌というほど受けてきたさまざまな排斥と差別の記憶が走馬灯のように蘇った。
けっして自分で選んだわけではない、抗うことの赦されない宿命。それが倫理に背くものであり、だれかを搾取する種類のものであったとしたら。それを課せられてしまった者すべては、生きているあいだ一瞬たりとも罪悪から逃れることが叶わない。自己嫌悪と共に在り続ける人生は、途方も無い苦悩を孕む。
「君の名前で僕を呼んで」で一躍スターに登り詰めたティモシー・シャラメとルカ・グァダニーノ監督が再びタッグを組むこの映画は、カニバリズムをテーマに据えている。しかし「ボーンズアンドオール」もまた、これまで彼が描いてきたように、人間の感情の機微、弱さや脆さや狡猾さや残忍さ、優しさや愛しさを、丁寧に掬い上げる物語であることに変わりはない。
舞台は80年代アメリカ。ヴァージニア州に住む「喰人」の欲求を持って産まれたマレン(テイラー・ラッセル)は、ある日ついに唯一の家族である父から見捨てられてしまう。父が残したのは、彼女の生い立ちを吹き込んだテープと出生証明書だけだった。
孤独の海で絶望に咽び泣く彼女は、まだハイティーンだ。ひとりで生きていく術を持たぬ彼女は、自らのルーツを探るため、幼い頃に失踪した母の出生地・ミネソタを目指す。こうしてマレンは、生き方を模索する旅に出るのだ。