【バビロン】自分にとっての「映画」とは何か?デイミアン・チャゼルが魅せるハリウッド黄金期と夢の行方

あらすじ

1926年、サイレント映画からトーキー映画に変わるハリウッド初期の狂乱を描く。

主人公マニー(ディエゴ・カルバ)はメキシコ移民でその日暮らし。大手映画撮影所「キノスコープ」が主催するパーティー会場に、見世物である象を運ぶ仕事を任される。

会場内は、ジャズをはじめとする様々なジャンルの生演奏と共に、ドラック、酒、性欲に溺れた人間たちが時間も気にせず踊り狂う乱痴気騒ぎっぷり。

マニーは会場にふらっと現れた女優志望の女、ネリー(マーゴット・ロビー)と出会う。二人はパーティに忍び込み、お互いに映画業界へ対する夢を語り合い、意気投合。そしてこのパーティをきっかけに、二人は「狂乱のハリウッド黄金期」へと飛び込んでいく。

チャゼルが作品に込めるメッセージ

チャゼルの作品の特徴は、「夢を追いかける人々が直面する過酷な現実」をテーマにすることだ。だが私は、「夢と恋は両立できない」というサブテーマも存在してるのではないか?と思っている。

2014年公開「セッション」は、プロドラマーを目指す音楽院生が主人公の物語。モラハラ指導者に目をかけられ、主人公は血眼になって練習に打ち込んでいく。その一方で、恋人を自分の将来を邪魔する存在のように感じて別れを告げてしまう。周りが見えなくなった主人公は、徐々に精神を病んでいくという話だ。

2016年公開「ラ・ラ・ランド」は、役者志望とジャズ奏者の男女が惹かれ合うラブストーリーだ。だが、それぞれの夢を一緒に追いかけていく中で葛藤が生まれ、次第にすれ違っていく。一見キラキラとしたアメリカンドリーム&ラブストーリーに見えるが、”理想と現実” を観客に突きつける辛辣な作品だ。

本作「バビロン」は、ハリウッド黄金期のLAでアメリカンドリームを掴んだ・掴みたい者たちの物語だ。アメリカンドリームを掴んだ主人公が、夢を目指す原動力となった破天荒な女性に振り回され、終いには大きな選択を迫られてしまう。

チャゼルが力点を置くのは、アメリカンドリームを掴めるかどうかではなく、「夢を本気で叶えたい」人間が苦悩し、もがく姿の描写だ。映画の世界を、まるで現実のように観客に突きつける。

中には、夢も恋愛も、全部手に入れ成功している人だっているだろう。
それでもチャゼルは、必ずといってもいいくらいに、夢と恋愛を両立させない。まるで「夢を叶えるためには、恋なんてしている場合じゃないんだ」というかのように。

チャゼルが「夢」について描くのは、彼自身の人生を通して得た原体験からの発想なのではないだろうか。
実際に「セッション」が作られたのは、チャゼル自身がプロドラマーを目指していたという背景が大きい。

「バビロン」も、チャゼルが幼少期から抱き実現した、映画製作に対する「夢」から来ているのではないだろうか。

約15年をかけて念入りに時代背景の調査をし、構想を練り、実現したとのこと。チャゼル監督作品の中でも、かなり強い想いが込められていたように感じた。

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S H A R E
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アパレル業界出身のシステムエンジニア。オンラインコミュニティ「Beauty Ritual」運営。恋愛映画がすきだけど、オールジャンル鑑賞します。