ひとりの少年が夢見た映画の世界と、抱き続けた“向こう側”への愛

スティーヴン・スピルバーグという名前は、普段映画を観ないという人でも知っているだろう。

「インディ・ジョーンズ」「ジュラシック・パーク」「ジョーズ」など、映画史に残る名作を多く生み出している、誰もが巨匠と認める存在だ。映画ライターと名乗っているからには、当然彼の映画もたくさん観ているのだろう……と思われるかもしれないが、実のところ、ほとんど観ていない。更に言えば、スピルバーグ屈指の名作として語り継がれる「E.T.」すらも観ていない(もちろん、この仕事を続けていくからには必ず観る機会を作ろうと思っている)。

そんな私が、スピルバーグについて語るために筆を執ってもいいだろうか。そんな心配が胸をよぎったが、逆に“大ファン”でも“通”でもないからこそ、書けることがあるはずだと思い立った。折よくスピルバーグの最新作であり、彼の自伝的作品でもある「フェイブルマンズ」が、3月3日から上映される。本作についての理解を深める過程で、スピルバーグの海のように深い映画愛と、御年76歳になった今も変わらずメガホンを握り続けている背景を知った。

もしかしたらスピルバーグは、心が少年のままの、ただの“シネマ・ラバー”なのかもしれない。

とてつもなく偉大で、ゆえに少しとっつきづらいと思っていた印象がいっぺんに変わった。そういえば私が観た彼の作品にも、ああ、映画が心の底から好きなんだな、と思える部分がたくさんあったと気づいたのだ。

たとえば、スピルバーグ監督作品で私が最初に観た「A.I.」。2001年に製作された本作は、近未来が舞台のSFで、母親に捨てられたアンドロイドの少年が愛を探し求め旅に出る物語である。
日本テレビの「金曜ロードショー」で観て、当時小学生だった幼心にも確かに残るものがあり、近所のレンタルビデオ店で中古のVHSを購入。その後何度も家で観直した作品なので、スピルバーグ監督作品の中では最も思い入れが大きい作品だ。

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S H A R E
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日芸文芸学科卒のカルチャーライター。現在は主に映画のレビューやコラム、エッセイを執筆。推している洋画俳優の魅力を綴った『スクリーンで君が観たい』を連載中。