【SHE SAID/シー・セッド その名を暴け】真実を語る声が、正しい変化をもたらす世の中であれ

加害者だけが守られる法の落とし穴

性犯罪における現行法は、被害者を守るカタチを成していない。作中に登場する被害者たちは、各方面からの圧力により、大半の女性が示談に応じていた。よって、公に証言をすれば訴えられるため、声を上げることさえできずにいた。

示談金をいくら支払われようとも、受けた被害の苦痛は消えない。それなのに、「金を受け取ったんだから黙れ」と言わんばかりに沈黙を強いるシステムは、あまりにも加害者だけに寄っていると言わざるを得ない。

加害者にも人権はある。それは確かにそうだろう。しかし、それと同じように、被害者にも人権があり、人としての尊厳がある。それを一方的に踏みにじっておきながら、告発された途端に「人権侵害だ」と騒いで被害者の口を塞ぐ行為は、果たして本当に加害者のためになるのだろうか。

性犯罪は、他の犯罪に比べて再犯率が高いと言われている。

にも関わらず、加害者は「人権」を盾に、周囲に己の罪を知られることなく、安息を守られる。結果、どうなるか。性的暴行は繰り返され、被害者は口を塞がれ、あらゆるものを失い続ける。本作で描かれた被害女性全てが、例外なく、ワインスタインから受けた性的暴行が原因で、あまりにも多くのものを失っている。仕事、健康、人としての尊厳、人間関係、思い描いていた未来。根こそぎ奪われたそれらは、決して返ってこない。

ワインスタインが90年代に起こした性的暴行事件で、示談にしたケースは8〜12件。しかし、NYタイムズ紙が記事を公開すると、次々に彼から被害に遭った女優や関係者たちが名乗りを上げはじめた。そこには、アンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトロウなど、ベテラン女優たちも名を連ねていた。これを機に、世界各国で性被害に遭った女性たちが声を上げる動きが加速し、#MeToo運動へとつながった。

「問題はワインスタイン以上に、性加害者を守る法のシステムにある」

作中に登場するこの言葉が、性犯罪における司法の欠陥を如実に表しているように思う。守られるべきは被害者で、被害者の声は聞き届けられるべきものだ。塞ぐものじゃない。

加害者もまた、何らかの手助けが必要なのは事実だろう。

しかし、起きたことを「なかったこと」にしても、加害者のためにはならない。己の罪と真っ当に向き合い、真摯に償うこと。二度と再犯をしないよう、必要であればセラピーを受けるなど、しっかりと更生プログラムを踏むこと。その工程を飛ばして「過去を断ち切り、やり直す」など、許されるわけがない。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。