【ケイコ 目を澄ませて】積み重なる小さな日常に、感覚を澄ますこと

osanai ケイコ 目を澄ませて

生まれつき聴覚障害で両耳が聞こえないケイコは、プロボクサーとしてリングに立ち続けていた。ひとしきり苦悩を抱えていた彼女だが、ある日、所属しているジムの閉鎖が決まってしまう。
耳が聞こえない主人公のボクサーを岸井ゆきのが演じる。監督は、「きみの鳥はうたえる」を手掛けた三宅唱。元プロボクサー・小笠原恵子の自伝『負けないで!』が原案になっている。

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あの人は、何を感じているのだろう

子どもの頃から、他者を理解したいという欲求が強いほうだった。

あの人は、今どんなことを感じているのだろう。
どうして、あんな行動をとるのだろう。

幼いながらに懸命に想像を膨らませ、できるだけ相手の立場に立って考えようとしていた。はじめは「わからない他者」に対する恐れが、その原動力だった。そして次第に、相手と気持ちが通じ、心の距離が近づくように感じられることが、なによりの喜びとなっていった。

しかし、どんなに懸命に相手を理解しようとしても、うまくいかないことのほうが多かった。何度も失敗し、傷を増やすうちに、いつしか他者を理解したいという思いさえ封じ込めてしまった。

つい0か100かで考えてしまうのは私の悪い癖だ。自分は自分、他者は他者。ちがう人間なのだから、理解できるはずがない。そう諦めるほうが、まだ傷が少なくて済むと思っていた。

そんな私に、今回鑑賞した映画「ケイコ 目を澄ませて」が声をかけてくれたような気がした。

「それはちがう」と。

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S H A R E
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東京在住。コピーライター。好きな映画は「ファミリー・ゲーム/双子の天使」「魔女の宅急便」。