【SHE SAID/シー・セッド その名を暴け】真実を語る声が、正しい変化をもたらす世の中であれ

osanai she said

2017年、NYタイムズ紙が報じた、著名な映画プロデューサーによるセクハラ・性的暴行事件の告発記事。国を超えて、性犯罪被害の告白を促す#MeToo運動へとつながった。
調査報道をもとに映画化された本作で、2人の記者を演じるのはキャリー・マンガンとゾーイ・カザン。監督を務めたのは、「アンオーソドックス」のマリア・シュラーダー。

──

映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(以下「SHE SAID」)」のパンフレット1頁目に、大きく書かれた「性的暴行事件」の字面を見たとき、変な言い方だがホッとした。

「性的暴行事件」と「セクハラ」では、言葉から受け取るイメージがまるで違う。

本人の許可なく体を触る。「No」を言えない、もしくは言いづらい関係性を認識しながら、性的接触を迫る。これらは全て、「性的暴行」に当たる。挿入の有無は関係ない。

“知人である”ことで安心できる心理的安全性や、仕事における上下関係を逆手に取った卑劣な性的暴行「エントラップメント(罠)型性暴力」の犯罪率

2017年、NYタイムズ紙が、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行事件を告発した。映画「SHE SAID」には、その告発記事が世に出るまで、様々な妨害を受けながらも調査を諦めなかった二人の女性記者・ミーガンとジョディの奮闘が描かれている。

性犯罪は、客観的な証拠が得られにくいことから、多くの場合は立証が困難である。実際、本作で描かれていた女性たちも、警察や弁護士に掛け合ったものの被害届を受理してもらえず、示談を勧められていた。

作中では、被害当時の生々しい音声が流れる場面もあった。その音声を聞く限り、その場で性的暴行が起きたことは明白だった。それでも、「音声だけでは証拠として不十分だ」と被害者の訴えは退けられた。

「性的暴行」と聞くと、夜道で見知らぬ男性から襲われる場面を想像する人もいるだろう。しかし、実際には、身内や知人から性被害を受けるケースの方が圧倒的に多いのだ。むしろ、“知人である”ことで安心できる心理的安全性や、仕事における上下関係を逆手に取り、罪を犯す加害者は後を絶たない。

近年では、このような性犯罪を「エントラップメント(罠)型性暴力」と呼ぶ。

平成20年に内閣府が行った「男女間における暴力に関する調査」では、以下のような結果が出ている。

女性の7.3%が「異性から無理やり性交された経験がある」と回答していますが、その加害者は、「よく知っている人」が61.8%、「顔見知り程度の人」が13.8%で、8割近くが面識のある人という結果が出ています。

(警察庁「性暴力にまつわる誤解」より引用)

本作に登場する加害者・ワインスタインは、世界的に著名な映画プロデューサーであり、当時ハリウッドで絶対的な権力を有していた。

そのような人物に、仕事で関わりのある女性がホテルの一室に呼び出された場合、「入室を断る」のは難しい。断れば関係性に亀裂が入るかもしれない。仕事を失うかもしれない。そう考え、不安を抱きながらも部屋に入ってしまうのは致し方ないことだ。また、「打ち合わせがホテルの一室であることは、業界特有のものだと思った」というニュアンスの証言をしている被害者もいる。

要するに、信頼を逆手に取られたわけだ。

しかし、いざ被害に遭って被害届を出すと、必ず警察にこう聞かれる。

「なぜ、部屋に入ったのですか」
「なぜ、抵抗しなかったのですか」

まるで、被害に遭った側が悪いとでもいわんばかりに。

1 2 3 4
S H A R E
  • URLをコピーしました!

text by

エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。