弁護士の城戸は、依頼者の里枝から、亡き夫・大祐の身元調査の依頼を受ける。大祐だと信じていた夫だが、実は全くの別人だった。男の正体を求める城戸が、最終的に手にする真実とは──。
原作は『マチネの終わりに』『本心』の平野啓一郎。「愚行録」「蜜蜂と遠雷」を手掛けた石川慶が監督を務めた。出演は妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝など。
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世界には、たくさんの嘘が存在する
嘘は、いけないのだろうか。
H列10番でエンドロールを眺めながら、そんなことを考えていた。確かに、人を傷つけるような嘘は、つかないほうがいい。自分だけが得をしたり、相手をおとしいれたりするのはよくない。けれども、人を傷つけない嘘(事実とは異なる言動をすること)ならどうだろうか。
「待たせてごめん」「ううん、今来たところ」
待ち合わせ時刻のずいぶん前に来ていたのに「今来た」と言う。ベタなシーンではあるが、これも嘘といえる。相手に気を遣わせないための「やさしい嘘」だ。
また、ズル休みは、嘘の理由で休むことだ。頻繁だと問題だが、時に「自分を守るための嘘」が必要な場合もあるだろう。人に迷惑さえかけなければいいんじゃない、と私は思う。
日本には「本音と建前」なんて言葉も存在する。建前も、ある種の嘘みたいなものだろう。
正直が大切。嘘はよくない。ちいさな頃、どこかで習ったような気もする。世界には、けれども「嘘」がたくさん存在する。案外、濁りのない「本当」のほうが少ないのかもしれない。
今回、鑑賞した作品「ある男」でも、ある嘘が描かれていた。