【すずめの戸締まり】悼み、鎮め、謹んでお返し申す。そして私は、明日へ向かう

osanai すずめの戸締まり

九州の静かな町で暮らす17歳の岩戸鈴芽は、ある日、扉を探している青年・草太に出会う。彼の後を追い掛けて山中の廃墟で見つけたのは、古びた扉。その近くに、災いが潜んでいるとも知らずに──。
「君の名は。」「天気の子」の新海誠による3年ぶりの新作。企画・プロデュースは川村元気、音楽はRADWIMPSと陣内一真が務める。主人公の岩戸鈴芽役には、若手俳優の原菜乃華が抜擢された。

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「観客の何かを変えてしまう力が映画にあるのなら、美しいことや正しいことにその力を使いたい」

映画「すずめの戸締まり」の原作・脚本・監督を担当した、新海誠氏の言葉である。私たちは、映画という作品を通して、さまざまなものを受け取っている。受け取った結果、どんな感情が生まれ、どのような未来につなげていくのかは、観る人により異なるだろう。ただ、私は、今作「すずめの戸締まり」を鑑賞して、たしかに自身が変化していくのを感じた。それは、新海監督がいうところの、「正しいこと」につながる変化だった。

鑑賞直後に抱いたこの気持ちを、忘れてしまいたくない。薄れさせてなるものか。そのような焦りと切実さをもって、いま私は、この文章を書いている。

早くに母を亡くし、叔母と二人、九州で暮らす17歳の鈴芽(すずめ)は、ある日、不思議な青年と出会う。青年の名は草太。「扉を探している」という草太は、代々家系として受け継がれてきた「閉じ師」だった。

「閉じ師」とは、“災い“をもたらす扉を閉める役割を任う人々である。日本各地の廃墟に存在する「扉」は「後ろ戸」と呼ばれ、その扉の向こうは「常世」につながっている。死者が赴く場所である常世は「ミミズ」の住処で、後ろ戸が開くとミミズが現世に溢れ、大地震などの災いをもたらす。災いを防ぐため、閉じ師は言霊を唱えながら扉に鍵をかける。草太は、そのための旅の途中で、鈴芽に出会ったのだった。

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『BadCats Weekly』など多数|他、インタビュー記事・小説を執筆。書くことは呼吸をすること。海と珈琲と二人の息子を愛しています。