時空を超えて出会った、同い年の親子。そこには「親子」の空気はなく、「親友」もしくは「姉妹」と呼ぶにふさわしい親密さがあふれていた。特に、二人がクレープを焼くシーンは、子どもらしい無邪気さが表情や仕草に表れていて、見ているこちらまで笑顔になった。「親だから」「子どもだから」という先入観を取っ払えば、もしかすると、こんな関係が親子でも築けるのかもしれない。たとえ、“同い年”同士で出会えなかったとしても。
森の小道を抜けた先に、8歳の母の家がある。その不思議な出会いは、ネリーにもうひとつの喜びをもたらした。今は亡き祖母が、マリオンの母としてその家で暮らしていたのだ。病を抱えているため、気弱なところのある祖母だったが、ネリーは彼女を心から愛していた。
伝えられなかった「さようなら」を胸にたずさえ、ネリーは若かりし日の祖母と辿々しくも言葉を交わす。その光景は、大きなエピソードを含まないからこそ、静かに深く、私の胸に染みた。
ファンタジーだからこそ伝えられる思い、感じられる温かさがある。人が人を想う気持ち、その力が起こした小さな奇跡は、祖母の死に区切りをつけられずにいた私の心を、静かに癒やしてくれた。
言えなかった言葉を、たくさんの「ありがとう」と「さようなら」を、棚の上に飾ってある祖母の写真に呟いた。きっと、届いている。そう信じて、祖母が好んだ花と和菓子を、写真の脇にそっと置いた。ベランダから流れる秋風が、小さな野菊を揺らす。その揺れる様は、祖母が生前、笑うときに体を揺する様に、少しだけ似ている気がした。
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■秘密の森の、その向こう(原題:Petite maman)
監督:セリーヌ・シアマ
脚本:セリーヌ・シアマ
撮影:クレール・マトン
編集:ジュリアン・ラシュレー
音楽:ジャン=バティスト・ドゥ・ロビエ
キャスティング:クリステル・バラ
美術:ライオネル・ブライソン
アートディレクター:ダニエル・ベヴァン
衣装:セリーヌ・シアマ
出演:ジョセフィーヌ・サンス、ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、ステファン・ヴァルペンヌ、マルゴ・アバスカルほか
配給:ギャガ
(イラスト:Yuri Sung Illustration)