【LOVE LIFE】再生を願いながら、愛と贖罪の狭間で喘ぐ、ある家族の物語

愛をまとう振りをしながら、誰もが誰かを裏切っていく。「大事だ」「心配だ」と言いながら、痛みから目を逸らし、身勝手に流され、都合よく逃げる。特に、妙子の元夫であり、敬太の父親でもあるパクという人物に対しては、憤りを感じずにはいられなかった。パクと妙子の離婚原因は、パクの失踪だった。敬太がまだ幼い頃、パクは突然、家を出た。そして、戻らなかった。パクに限らず、本作に登場する大人たちの姿は、ぐらぐらと不誠実で、その行為や言動の数々に私の心は大きく乱れた。それはおそらく、幾人かの登場人物のなかに、自分の面影を見たからだろう。

本当は怒鳴り散らしたいくせに、評価を気にして平静を装う。いつだって本音と建前があり、取り乱した途端に、隠しきれない本音が顔を出す。衝動を抑えきれず、不誠実な行動を取る。守るべきものがありながら、己の限界を勝手に決めて、逃げ出してから後悔する。
──見たくないし、認めたくない。でも、私のなかには、たしかにそういう部分がある。そのせいで、これまで多くのものを失ってきた。失ってからどんなに後悔しても、一度壊れた器は、二度と元通りにはならない。
妙子も、二郎も、パクも、他のすべての登場人物たちも、何かを守っているつもりで、何かを壊していた。彼らは、私だった。常日頃、必死に隠している私の一部だった。だから、痛かった。

矢野顕子の名曲が流れるエンドロールは、穏やかで美しかった。でも私は、頭を抱え、じっとうつむいていた。激しい同族嫌悪を持て余し、誰にともなく懺悔したい気持ちに駆られ、とてもじゃないが目を開けてなどいられなかったのだ。

当たり前に、誠実に、穏やかに、丁寧に。いつでも、そんな心持ちで人を愛せたらいいのに。たったそれだけの、なんと難しいことか。

胸にずっしりとのしかかる、贖罪の重み。それはすなわち、人生の重みなのかもしれない。

彼らの罪。私の罪。どちらが重いかなんて、誰にもわからない。誰にも預けられない自分だけの荷物を、お腹に力を入れて背負い直した。背中がみしりと鳴り、体がわずかにかしいだ。

雨粒を浴びながらダンスをする妙子の背中は、あまりにも悲しかった。でも、それ以上に美しかった。“きれいなだけじゃない”ものの、“きれい”な側面。そのわずかな光を丁寧に掬い取る。人は、そうやって生きていくしかない。どんなに痛くても、どんなに苦しくても、そうやって、歩いていくしかない。

鑑賞から数日経った今、荒々しい感情の波は去り、静けさだけが残っている。もう一度、あのきれいなエンディングが聞きたい。今なら、顔を上げて聞ける気がしている。長月の雨の音に合わせて、心地よく、穏やかな諦めと共に。

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■LOVE LIFE
監督:深田晃司
脚本:深田晃司
編集:シルビー・ラージェ、深田晃司
撮影:山本英夫
照明:小野晃
美術:渡辺大智
音楽:オリビエ・グワナー
主題歌:矢野顕子「LOVE LIFE」
出演:木村文乃、永山絢斗、砂田アトム、山崎紘菜、神野三鈴、田口トモロヲほか
配給:エレファントハウス

(イラスト:Yuri Sung Illustration

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S H A R E
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エッセイスト/ライター。エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)刊行。PHPスペシャルにエッセイを寄稿。書評・著者インタビュー『ダ・ヴィンチWeb』|映画コラム『osanai』|連載『withnews』『婦人公論』|ほか、小説やコラムを執筆。海と珈琲と二人の息子を愛しています。

エッセイ集『いつかみんなでごはんを——解離性同一性障害者の日常』(柏書房)
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155729