【裸足で鳴らしてみせろ】過去に縛られた自分との決別

osanai 裸足で鳴らしてみせろ

大学を中退して父親の不用品回収会社で働く直己と、市民プールでアルバイトしながら盲目の養母・美鳥と共に暮らす槙。いつしかお互いが惹かれ合っていることを自覚しつつ、病床につく美鳥のために、「世界中の音」を記録するようになる。
監督は、商業映画デビューとなる工藤梨穂。本作は、ぴあフィルムフェスティバルのPFFスカラシップ作品として製作されている。

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時間とは、不思議なものだ。

過去は過去で、現在は現在で、未来は未来だ。

だけど「過去は、本当に語られていた通りの過去だったのか?」と問われたら、自信を持って「Yes」とは言えない。

記憶から消えてしまったもの、新しく塗り重ねられたもの、全く誤認して記憶しているもの──。現在や未来にも同じような「齟齬」は生じ得るが、過去と現在の関係はとりわけ曖昧で。ふと現れた現在という時間しゅんかんは、その存在を認識した瞬間から過去へと流れ去ってしまうものだ。

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時間に翻弄される直己

映画「裸足で鳴らしてみせろ」に出てくる登場人物たちは、みな時間に翻弄されている。

大学を中退し、父親が経営する不良品回収会社で働く直己。彼にとっての現在とは、過去と混ぜになっているものだ。直己の仕事は、トラックで不良品を回収すること。ある人たちにとって「不要」と見做された過去のものを集めてくる。

直己はそれらの一部をこっそり自宅に持ち帰る。そして暇を潰すために部屋に飾るのだ。まだまだ不要なものじゃない、それは「俺はまだ過去の人間じゃない」と抗っているようにも映っていた。

大学卒業を控えた友人が、どんな未来を選択しようかと考えている最中、直己は父親の近くから離れることができずにいる。うっかり外食のことを告げずにいただけで、「もう食べてきたのか」と静かな圧をかける父親だ。

露骨ではないが、がっちりとした支配の構図。未来へと踏み出せない直己の不憫さが哀れだ。

対照的な友との出会い

そんな直己が出会ったのは、プールでアルバイトをしている槙だ。未来への過度な期待は持っていない一方で、過去に縛られているわけでもない。そのひぐらしで、現在を気ままに生きているように見える彼に、直己は少しずつ惹かれていく。

対照的に見える2人だが、未来への希望は全く見出せていない。それでも初めて「ほんの少し先の未来」に希望を見出したのは、奇しくも、槙の養母・美鳥が病床に臥したときだった。

養母から通帳を託された槙。「この200万円で、私の代わりに世界を旅してほしい」と言われるも、実際には通帳には9万円しか残っていない。これじゃ旅に出れないと頭を抱えるが、槙は妙案を思いつく。

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S H A R E
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株式会社TOITOITOの代表です。編集&執筆が仕事。Webサイト「ふつうごと」も運営しています。